本部からの圧力
北東支部・司令室。
夜宮は端末に映し出された本部の指令文を、無言のまま読み返していた。
簡潔で、冷たい文面だった。
《天城健太郎を本部に一時転属させる。
次回異常ゲート調査は、本部主導とする》
あまりにも露骨だった。
まるで本部は、健太郎を“資源”として扱うことを隠そうともしない。
霧亜と美香は、少し離れた位置でその空気を感じ取っていた。
室内は静寂――いや、静寂を装った緊張で満ちていた。
夜宮は通信を開き、本部の監察官と対峙する。
「……断る。彼はまだ訓練段階だ。
本部の実験材料として渡すわけにはいかない。」
端末越しの声は乾いていた。
『夜宮支部長。判断を誤らないことを推奨します。
本部は、支部による人材保護を問題視しています。
従わない場合――“支部査察”を実施せざるを得ない。』
霧亜が息を呑む。
査察。それは建前上の調査であって、実態は“支部の権限剥奪”を意味する。
夜宮はゆっくりと目を閉じ、深く息を吐いた。
そして、低く静かな声で答えた。
「……本部は、なぜそこまで急ぐ?」
『理由を開示する義務はありません。
ただし――健太郎という人物は、本部で扱うべき対象である。
それだけです。』
通信が切れた。
司令室に残ったのは、冷たい電子音と夜宮の拳が握られる音だけだった。
彼の指先は白く、手の甲に浮き出た血管が震えていた。
霧亜が口を開く。
「夜宮さん……どうするつもりなんですか?」
夜宮は答えない。
ただ、拳を静かに机の上に置き、低く呟いた。
「……本部が本気で来る。
そしてあいつらは、“必要とあらば支部ごと切り捨てる”判断を平然と下す。」
その声には、怒りでも恐れでもない。
長年の職務経験からくる、冷酷な現実認識だけがあった。
夜宮と本部――
これまで曖昧だった亀裂が、いま明確な“対立”となって表に出た。
そしてその中心には、健太郎という存在がいた。




