美香の推論
カムイ支部・解析室。
巨大モニターに並ぶ数値は、少年と健太郎の“界層反応”を並列比較していた。
美香は椅子をくるりと回し、顎に指を当てたまま呟く。
「……ねぇ、霧亜。これ、ちょっと変じゃない?」
霧亜は眉を寄せて覗き込む。
「どこがですか?」
「反応の“式”が同じなんだよ。
あの無属性の子と、健ちゃんの界縁揺らぎ……
数学的っていうか、構造的っていうか……“同じ方程式で記述できちゃう”の」
「……意味が、わからない。誰がそんなものを?」
美香は手を止め、静かに答える。
「誰か、じゃない。
“この世界そのもの”だよ。
世界の法則が、二人を同じカテゴリーで扱ってる。それが一番怖い」
霧亜は思わず息を飲んだ。
少年は世界の外側に立つ存在。
健太郎もまた、世界の外側に引かれつつある存在。
それが同じ“式”で記述できるというなら――
健太郎とは何者なのか。彼女の胸に冷たい痛みが走った。
C-3 本部からの圧力
その日の午後、支部司令室に硬質な電子音が響いた。
夜宮が画面を開くと、そこには“本部直令”の文字。
『通達:天城健太郎を本部に一時転属させる。
次回以降の異常ゲート調査は、本部主導とする。』
霧亜と美香が同時に顔を上げる。
夜宮は読み終えると、短く息を吐き、即座に返信を打った。
「……断る。彼はまだ訓練段階だ。
現場に出す判断も、保護も、こちらで行う」
返信は、十秒もかからず戻ってきた。
『拒否を確認。
ならば支部の査察を実施する。
準備を整えよ。』
空気が凍りついた。
霧亜が囁くように尋ねる。
「夜宮隊長……本部、本気なんですか?」
夜宮はモニターを閉じ、ゆっくりと拳を握った。
抑え込まれた怒気が、指先に白く滲む。
「本部は“危険因子”を把握するためなら手段を選ばない。
だが……だからと言って、彼らに健太郎を渡す気はない」
その声音は、静かだが鋼のように固かった。
カムイ支部と本部の軋みが、ついに表面化した瞬間だった。




