健太郎との関連性(本部視点)
ガーディアン本部・第零会議層は、常の白光を抑え、警告色の淡い赤に染められていた。
円卓を囲むのは研究班、監察班、界層管制局の代表者たち。彼らの前方ホロには、複層ゲート近傍で得られたデータ波形が、脈動するように揺れている。
監察班長・氷室は、指先でホロを拡大した。
「以上が、侵入者確保時の界層データだ。……問題はこの瞬間だ」
波形が一気に跳ね上がる。
ゲートの鼓動が、あたかも何かに“呼応”したように脈打つ。
研究官Bが眉を寄せる。
「天城健太郎が現場付近に到達した瞬間……ですね?」
「そうだ。偶然とは言いがたい振幅変化だ」
氷室は席に視線を巡らせた。
「加えて、確保した無属性少年――アレが、健太郎を『知っていた』。名前を呼ばれたわけではないが、視線の固定と反応パターンは明確だ」
研究班がざわついた。
「しかし、本来“界縁反応”は虚界存在の指標のはずだ。健太郎は人間のはず……」
「“はず”で説明が済むなら、我々はここまで苦労しない」
氷室は淡々と言い放つ。
「健太郎はなにかしら、界層の封印網の一角に影響を与えている可能性がある。無属性少年の存在波と同期した反応……。予断は許されない」
重い沈黙。
ついに本部首脳Aが口を開く。
その声は、氷室より静かで、より冷たかった。
「少年との接触は危険……という報告だったな、氷室」
「はい。双方が再び接触すれば、どの層が“揺れる”か予測がつきません。ゆえに健太郎を現場から遠ざけるべきだと――」
だが首脳Aはあっさりと首を振った。
「逆だ。――近づけろ」
会議室が一瞬凍りついたように静まる。
氷室が訝しげに目を細める。
「……理由を伺ってよろしいですか」
「簡単だ。双方が“反応”した。あれは偶発ではない。ならば観測値を得る機会を、こちらから作ればよい」
淡々とした口調は、まるで人間ではなく計算機が告げているようだった。
「天城健太郎は、少年と同じ“界縁帯”で揺らいでいる。どちらが原因か――あるいは両者は同じ発生点から流れ着いたものか。いずれにせよ、我々には観測が必要だ。健太郎は……サンプルとして存分に利用できる」
その言葉に、室内の温度がさらに一段階下がった気がした。
氷室は、短く息を整え、形式的に答える。
「……了解しました。本部の意向に沿い、プロトコル・ルートBへ移行します」
首脳Aは満足そうに頷いた。
「少年は封鎖区画で解析を続ける。健太郎は、支部で自由に動かして構わない。――むしろ、動かせ」
最後の一言は、命令というより“実験条件の設定”に聞こえた。
やがて会議が終了し、関係者が退出していく。
誰も声をあげない。ただ静かに、本部は“観測計画”へと滑り出した。
少年と健太郎の無自覚な関係は、すでに本部によって、冷徹極まりない研究案件へ変わっていた。




