本部による情報封鎖
東支部・司令室。
夕刻の光が斜めに差し込み、モニターの輝度だけが異様に鋭く浮かび上がっていた。
その中央に、一本の通達が静かに表示される。
――「侵入者に関する一切の報告を禁止する」
――「現場記録・監視映像・魔力反応ログ、全てを本部へ即時送付せよ」
――「以後、支部側での閲覧権限は無効化する」
文字は無機的なのに、ひどく重かった。
霧亜が読み終えた瞬間、手にした端末をわずかに握りしめる。
「……こんな、露骨な封鎖……」
美香も顔色を変えて舌を巻く。
「全部、本部に吸い上げて……支部には“見るな”ってこと?」
窓際に立つ夜宮は腕を組んだまま、通達から視線を離さなかった。
その表情は淡々としているようで、瞳の奥に抑え込んだ苛立ちが揺れている。
「明らかな越権だ。事後承認すらない」
低く呟いた夜宮の声は、冷え切っていた。
霧亜は慎重に言葉を返す。
「……反論は、されますか?」
夜宮は短く息を吐き、目を閉じる。
「今、逆らえば──北東支部ごと“処分対象”にされかねない」
室内の空気がひりついた。
冗談ではなく、本部が本気でそうする権限を持っていることを、彼らは知っていた。
夜宮はしばし沈黙したのち、声を落とす。
「本部がここまで急ぐのは……あの少年を、“禁制存在”に近いと判断したのだろう」
霧亜が振り返り、困惑したまま問う。
「禁制……? あの、理論上だけの……架空の規定ですよね?」
夜宮はゆっくりと首を横に振った。
「本来は、ね」
彼は窓の外を見た。
沈みかけた陽光が、山の稜線を鈍い金色に染めている。
「だが──本部が動くときは、“架空”が現実になる。
そして、現実になった規定は……必ず誰かを消す」
霧亜と美香が息を呑む。
健太郎は言葉の意味を完全には理解できないまま、しかし胸に冷たいものだけがじわりと広がっていた。
夜宮は柔らかくも鋭い声音で締めくくった。
「気を付けておけ。
本部は、真実を知った者から順に、口を塞ぐ組織だ」
その言葉は、夕闇が迫る支部司令室に、静かな警鐘として沈んでいった。




