“侵入者の少年”発見
山間に沈みゆく夕光が、薄い霧を朱色に染めていた。
潜在ゲートの鼓動は、間断なく耳の奥を叩いている。
まるで──何かが扉の向こうから爪でひっかいているような、乾いた振動。
霧亜が測定器の針を睨みつけたまま、短く息を飲む。
「……誰かいる」
「え? 人影なんて——」
美香の言葉が終わるより先に、境界警戒網の内側、通常なら完全封鎖領域の岩場に“それ”はいた。
小柄な後ろ姿。
色素の薄い髪が、風にほとんど揺れず垂れ下がっている。
年齢は十二、十三といったところだろう。
だが、その佇まいには幼さという概念がなかった。
霧亜は即座に防御結界を展開し、健太郎を背後に下げる。
「警戒網をすり抜けた……? 不可能なはずよ。ここは三重層の封鎖領域なのに」
美香が計測器を振りかざす。しかし、表示された数値を見て凍りついた。
「……え、反応ゼロ? 魔力が……全く無い? そんなの……生物として……」
霧亜は眉を寄せたまま呟く。
「属性なし……五界理論上、存在し得ない……」
そのとき、少年がこちらへ振り返った。
無機質な瞳だけが異様に鋭く、まるで光を反射していない。
視線が、霧亜でも美香でもなく──健太郎に、真っすぐ突き刺さる。
そして。
「……ようやく、見つけた」
言葉は囁きとも叫びともつかず、だが確実に彼だけを指していた。
健太郎は息を呑む。
「は? 俺を……? なんで、俺──」
続きの言葉を飲み込むように、大地が震えた。
少年の視線と同時に、背後の潜在ゲートがけたたましく脈動し始める。
境界膜が膨れ、苦鳴のような音を立てて──裂けた。
霧亜が叫ぶ。
「全員、防御――ゲートが共鳴暴走してる!」
美香の手から測定器が落ち、砂利の上で跳ねた瞬間。
世界の端が破れ、冷たい風とも熱ともつかない気流が三人の肌を切り刻んだ。
そして少年は、一歩だけ健太郎へ踏み出した。
その動きはあまりにも自然で、
あまりにも“境界など存在しない”かのようだった——。




