登場人物たちの行方(静的モンタージュ) 健太郎 & 美香
世界が静まり返ったあと、
英雄の凱旋も、祝賀の儀式もなかった。
変化は、もっと小さく、断片的に起きていた。
それらは並べられ、互いに干渉せず、
一つの結論にも収束しない。
それが、この時代の終わり方だった。
健太郎と美香は、前線に立つことをやめていた。
肩書き上は「次世代ガーディアン候補生の指導役」。
だが、教官席に立つことはない。
評価表を持つこともない。
訓練場で健太郎がするのは、歩き回ることだけだ。
誰かの前に立たず、誰かを指ささない。
「その選択で、
選ばなかった方はどうなる?」
それが、彼の唯一の問いだった。
美香は、答えを翻訳しない。
沈黙や迷いを、無理に言葉へ変えない。
「今、言葉にしないという選択も、
記録しておく」
そう言って、彼女はただ頷く。
二人が教えているのは、能力の使い方ではない。
正解の探し方でもない。
選ばなかった結果を、引き受けるということ。
それだけだ。
霧亜は、歴史の奥にいた。
原初記録層。
改竄されたログ。
戦争の公式報告と、未提出の私的記録。
彼女は、それらを編集しない。
正史も、異説も、告発文も、並べて置く。
善悪を裁かない。
動機と結果を切り離し、
「なぜそうしたか」を削除しない。
誰かが過去を使って正当化しようとしたとき、
霧亜の記録は、それを許さない。
「正しい歴史はない。
ただ、隠さない歴史があるだけ」
その一文が、彼女の編纂方針だった。
夜宮は、もう命令を出さない。
戦術顧問という肩書きも退け、
彼は倫理教導官として名を残した。
戦い方を教える場に立たず、
決断の場面にだけ、同席する。
沈黙のあと、彼は必ず問いを投げる。
「それは勝てる選択か?
――それとも、戻れない選択か?」
答えは求めない。
選ばせるための問いでもない。
その重さを、
選ぶ者自身に理解させるための言葉だった。
少年は、名を持った。
特別な称号は与えられなかった。
記念碑も、隔離区画もない。
器でもない。
鍵でもない。
象徴でもない。
虚界との接続は、今も彼の内側にある。
だが、常時共鳴はしていない。
彼は「可能性の保管者」ではある。
だが、決定者ではない。
世界は、彼に役割を押し付けなかった。
英雄視もしない。
恐れて閉じ込めもしない。
彼は、ただの一人として、
朝起きて、歩き、迷い、眠る。
ときどき立ち止まり、
選ばなかった未来の気配に耳を澄ませながら。
誰も、世界の代わりに立っていない。
それぞれが、
決めなかったことの余白を抱えたまま、
生きている。
その静けさこそが、
この世界が選んだ、次の形だった。




