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ガーディアン・リヴァース:境界を駆ける者たち  作者: 南蛇井


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夜宮レイジと霧亜の対立/本部の思惑

夜の支部長室は、外の照明塔の光がわずかに差し込むだけで、人の気配が薄い。

空気は研ぎ澄まされ、まるで室内そのものが息を潜めているようだった。


霧亜は、迷いのない動作で扉を叩き、間髪入れず開いた。


「夜宮隊長。——お話があります」


夜宮は机の端末に視線を落としたまま、短く答えた。


「どうぞ」


霧亜は一歩進み、閉めた扉を背にして言い切った。


「健太郎を危険区域に出す決定、撤回をお願いします。

彼はまだ訓練段階です。魔力流出現場は、学生が扱えるレベルではありません」


夜宮はようやく顔を上げ、霧亜の方を見る。

感情を削ぎ落とした、冷静というより“測定器のような視線”だった。


「霧亜さん。あなたが安全を優先するのは理解します。

ですが——本部は状況を“戦略レベル”で捉えている」


霧亜は眉を寄せた。


「戦略……? 学生を前線に出すのが?」


「健太郎の問題は、学生であるかどうかではない。

彼の“性質”です」


夜宮は端末を指先で操作し、測定結果のホログラムを宙に浮かせる。


境界共鳴値の波形が、異様な軌跡を描いていた。

人間界の観測基準を完全に逸脱した、荒々しくも精密な曲線。


「これほどの境界干渉特性……。

五界の膜に触れられる可能性がある。

——だからこそ、現場で観測値を集める必要がある」


霧亜は即座に返した。


「五界の膜に干渉? そんな危険性があるなら、なおさら現場に出すべきではありません!」


夜宮は短く息をつき、椅子から立ち上がる。

影が霧亜の足元まで伸びた。


「危険性があるから、です。

本部は彼を放置できない。

境界膜に影響を与え得る存在は、“制御下”に置くのが原則となっています」


「……制御下?」


霧亜の声が低くなる。

その一語は、彼女の記憶の深い層を刺激した。

過去に失われた仲間の記憶——本部の決定で切り捨てられた者たちの影。


夜宮は続けた。


「誤解しないでください。私は彼を傷つけたいわけではない。

むしろ逆です。戦略上価値が高すぎる。

だからこそ、リスクを“先に把握しておきたい”」


霧亜は一歩前に進んだ。


「あなたの言い方は、まるで——」


「武器について語る時のようだ、と?」


霧亜は沈黙し、強く拳を握る。


夜宮はその反応を読みながらも、声の温度を変えない。


「本部は、彼を危険視しています。

そして——可能性として、利用価値も」


霧亜の瞳が鋭く光った。


「……もし本部が健太郎を“武器”として見るなら、私が守ります」


夜宮の表情にわずかな変化が走る。

驚きでも嘲笑でもない。

“なぜそこまで”と静かに問うような視線。


しかし夜宮は、その問いを口にしなかった。


代わりに、端末画面のある項目をそっと閉じる。

そこには送信されていない“転属案”が表示されていた。

宛先は本部。

件名には《北東支部所属:立科健太郎 管理区分変更案》。


霧亜はその動きを見逃していなかったが、何も言わなかった。


夜宮は背を向けたまま、最後に一言だけ告げた。


「明日、現場に向かいます。

彼を同行させる判断は変わりません。

……あなたが同行しても構わない」


霧亜は静かに息を吸い、決意を固めるように言った。


「当然です。あの子をひとりで行かせるつもりはありません」


夜宮は頷きもしなかったが、反対もない。

霧亜は踵を返し、足音を抑えたまま部屋を後にした。


扉が閉まる直前、夜宮は小さく呟く。


「——本部は、彼を放しはしない」


その声は、夜の支部長室に沈んでいった。

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