ガーディアンの解体と再編
かつて、ガーディアン本部と呼ばれていた建造群は、今や別の沈黙をまとっていた。
天を貫いていた監視塔は稼働を止め、外壁には封印符と解体標識が重ねられている。
内部深くに存在した抑止演算区画――世界の未来を計算し、介入の是非を決定していた中枢は、完全に閉鎖された。
そこに新しく設けられたのは、意外なほど質素な空間だった。
高い天井も、威圧的な装置もない。
あるのは、円卓を中心とした小さな交流ホールと、隣接するいくつかの調停室だけだ。
壁面には、各界の言語で書かれた注意書きが並ぶ。
「決定権は持ち込まないこと」
「同意なき介入は禁止」
かつて、この場所は「世界を守るため」に存在していた。
今は違う。
正式文書により、ガーディアンは監視機関として解体された。
常時観測は廃止。
介入権限の集中は否定。
世界代行判断プロトコルは、永久凍結。
それらは、危険な兵器としてではなく、
「善意による独裁の可能性」として封じられた。
名称だけは残った。
だが、その中身は、完全に別物だった。
新生ガーディアンの役割は、明確に限定されている。
界と界のあいだで、言葉がすれ違ったとき。
思想が衝突し、力に変わりかけたとき。
あるいは、境界が不安定になり、誰も全体像を把握できなくなったとき。
彼らは呼ばれる。
呼ばれたときだけ、現れる。
介入は要請制。
判断は各界、あるいは当事者自身に委ねられる。
ガーディアンは答えを出さない。
翻訳し、整理し、対話の場を用意するだけだ。
ある調停室の壁には、無記名の記録が刻まれている。
「我々は、世界を守らない。
世界が互いを誤解しないよう、橋を架けるだけだ」
それは宣言ではなく、戒めに近かった。
この場所は、もう世界の上には立たない。
ただ、世界と世界のあいだに、静かに存在している。
支配のためではなく、
選択が奪われないために。




