リヴァースの再制御 選択
ゼロ化領域の静寂の中で、少年は目を開いた。
世界は、まだ何も言わない。
だが、それでよかった。
これまで彼は、虚界の衝動に背を押されていた。
「戻せ」
「救え」
「すべてを一つにせよ」
それは命令ではなかった。
祈りでもなかった。
――生き延びようとする、可能性の重さだった。
少年は、ゆっくりと首を振る。
「……戻さない」
その言葉に、怒りも拒絶もない。
ただ、方向を変えるという意思だけがあった。
「全部を、元に戻すんじゃない」
「消すんでもない」
少年の意識が、虚界へと向かう。
だが今度は、引きずり込まれない。
自分の立場を保ったまま、触れる。
「残すんだ」
虚界は震える。
反発ではない。
理解に近い揺れだった。
虚界は、敵ではなかった。
救済装置でもなかった。
それは――
選ばれなかった可能性が、居場所を失わずに在り続けるための層。
少年は、リヴァースの構造を組み替える。
統合のための核を、ほどく。
世界を引き寄せる重力を、解体する。
代わりに、位置を定める。
五界に重なりながら、完全には溶け込まない場所。
干渉はできるが、命令できない距離。
呼びかけは届くが、強制はできない座標。
リヴァースは、再定義される。
統合核ではない。
破壊因子でもない。
――緩衝核。
――未選択の保管庫。
描写として、世界が応える。
虚界は、拡張をやめる。
暴力的な膨張ではなく、静かな収縮。
消滅ではない。
輪郭を持った「残存」へと変わる。
五界の境界が、軋みながら再編される。
完全な壁には戻らない。
だが、溶け落ちもしない。
境界は「線」ではなく、
状況によって開閉する可変構造になる。
通れるが、強制されない。
交わるが、均されない。
法則は衝突をやめ、
対話可能な距離で、並び立つ。
ゼロ化領域の外側で、世界が再び息をする。
健太郎は、その変化を感じ取る。
何かが「決まった」感触ではない。
何かが「戻された」感覚でもない。
――選択肢が、保存された。
少年は、静かに立っている。
もう、世界を背負ってはいない。
だが、世界から切り離されてもいない。
彼は器のままだ。
だが今、その器は
世界を壊すためでも、救うためでもなく、
選び続ける余地を残すために存在している。
虚界は、沈黙する。
五界は、揺れを収める。
完全な答えは、どこにもない。
それでも。
世界は、もう一度
自分を選び直せる状態へと戻った。
少年――リヴァースは、
その事実を静かに受け入れ、
次の時間へと踏み出そうとしていた。




