健太郎の覚醒条件 理解の瞬間
五界の力が混線する中心域で、健太郎は立ち尽くしていた。
聖律が空間を切り裂こうとするたび、精霊の流れがそれを包み込み、霊波が意味を剥ぎ、獣の衝動が押し返す。力はぶつかり合い、相殺され、どれも決定打にならない。世界は飽和し、判断を拒んでいた。
その只中で、健太郎だけが――取り残されている。
違和感ではなかった。
むしろ、静かだった。
自分の身体に、どの力も「馴染まない」。
拒絶されているのではない。最初から、適応対象として数えられていない。
天使でもない。
精霊でもない。
霊でもない。
ましてや、管理者でも、選ばれた媒介でもない。
健太郎は、ここに来るまで何度も問われてきた。
どちら側に立つのか。
何を代弁するのか。
誰のために決めるのか。
だが、そのすべてに、彼は完全には当てはまらなかった。
その理由が、ようやく言語化される。
――最適化されていない。
五界はそれぞれ、自分たちに都合の良い存在を設計し、育て、選び続けてきた。秩序に耐える者、全体を感じ取れる者、沈黙を保てる者、生き残る者、管理できる者。
健太郎は、そのどれでもない。
人間界においては適応値が高い。
だがそれは、「世界に馴染む能力」であって、「世界を代表する資格」ではない。
境界に触れれば弾かれる。
界の力を受ければ希薄化する。
欠陥ではない。
これは――条件だ。
健太郎は、混線する力の中心で、ようやく理解する。
「だから、俺だけが――」
内心の声は、妙に静かだった。
「どれにも染まらない」
染まらないから、混ざらない。
混ざらないから、無効化できる。
世界を壊す力でもない。
世界を導く資格でもない。
ただ、世界の力が“意味を持つ前”の状態に戻す適性。
その瞬間、彼の足元から、感覚が剥がれ落ちていく。
魔力でも、聖性でも、霊性でもない。
概念が沈黙し、法則が息を潜める。
まだ何も起きていない。
だが、健太郎は確信していた。
これは選ばれた力ではない。
世界が追い詰められた末に、残してしまった例外だ。
――ゼロ化領域。
それは奇跡ではない。
境界に適応できなかった人間が、最後に立てる場所だった。




