少年(リヴァース)の暴走 少年の状態
内面描写:
無数の「選ばれなかった世界」が流れ込む
破滅した可能性、拒絶された未来、否定された存在
少年はそれらを「救わなければならない」と錯覚する
少年(錯乱)
「全部……戻さなきゃ……
捨てられたままじゃ、終われない……」
→ 少年は「救済」を選んでいるつもりで、
選択を強制する側に立ってしまう。 小説化
――中心核に立つ少年は、叫んでいなかった。
それでも、世界は彼の内側で軋んでいた。
反転祭壇の深部、儀式の最も静かな場所で、少年は立っている。拘束はない。鎖も命令もない。意志は、確かに彼自身のものだった。
だが、その意志の上を、虚界の衝動が覆い尽くしていた。
流れ込んでくる。
一つではない。
二つでもない。
数え切れない。
選ばれなかった世界。
到達しなかった未来。
「もしも」が許されなかった人生。
救われなかった都市。
踏み出せなかった一歩。
拒絶された才能。
存在するはずだった誰か。
それらは悲鳴ではなかった。怒号でもなかった。
ただ、在りたかったという静かな圧力だった。
少年の視界は、現実と虚構の区別を失っていく。崩壊した世界が、まだ壊れていない世界として現れる。否定された可能性が、当然のように「ここに在る」と主張する。
――なぜ、消えなければならなかった?
――なぜ、選ばれなかった?
――なぜ、最初から無かったことにされた?
問いは彼自身のものではない。
だが、拒むこともできない。
少年は理解してしまった。
虚界とは敵ではない。置き去りにされたものの集合だということを。
そして、そこで致命的な誤認が生まれる。
――救わなければならない。
――戻さなければならない。
――すべてを。
少年の唇が震える。声にならない言葉が、やがて外へ漏れ出した。
「全部……戻さなきゃ……」
視界に、無数の「ありえたはずの世界」が重なる。どれも間違っていない。どれも、理由があって排除されたわけではない。ただ、選ばれなかっただけだ。
「捨てられたままじゃ……終われない……」
その瞬間、虚界の衝動が一段階、前へ出る。
少年は「救済」を選んでいるつもりだった。
だが彼が行おうとしているのは、選択肢の復元ではない。
選択そのものを無効化する行為だった。
救うために、選ばせない。
否定しないために、差異を消す。
失われないように、すべてを重ねる。
それは、境界神がかつて犯した過ちと、形を変えた同一の論理だった。
少年は、気づかない。
自分が今、「救済される側」から「強制する側」へと立場を反転させていることに。
反転祭壇が、彼の心拍に同期して脈動する。
虚界は応答する。
五界は引き寄せられる。
そして世界は、彼の善意によって、逃げ場を失っていった。




