カムイ支部の緊急態勢発令
サイレンが短く鳴り、赤い警戒灯が回転を始めた。
ガーディアン北東支部――通称カムイ支部。その中央階層にある緊急管制室は、瞬時に人の流れが変わったかのように慌ただしさを増す。
大型スクリーンには五界観測網からの最新データが表示され、報告員たちの声が交錯する。
「本部より通達! 北東支部に対し――“緊急加重任務”発令!」
読み上げた通信士の声に、管制室全体が一瞬静まり返る。
加重任務。それは支部に過負荷になるほどの案件を“一括で押し付ける”も同然の通達だ。カムイ支部の戦力と人員では、明らかに限界が近い。
だが。
「――受諾する」
静かだがよく通る声が、現場の空気を断ち切った。
特務科隊長・夜宮レイジが通達端末に指を置いたまま、淡々と宣言する。
周囲の隊員たちが驚きに顔を向けた。
「夜宮隊長、しかし……! 現在稼働中の班で手一杯です!」
「出せる予備戦力はほぼゼロですよ!」
混乱が飛ぶ。だが夜宮は眉一つ動かさない。
「我々に選択肢はない。本部が出張ってこない以上、この異変は“ここ”で止めるしかない」
その声音に迷いはなかった。
直後、夜宮の指示が矢継ぎ早に飛んでいく。
「第一小隊、妖精界北境へ出立準備。第二小隊は霊界墓所区画の座標を照合。第三は魔獣界辺境帯へ。各隊、二十以内に装備チェックを完了させろ」
現場が動き出し、管制室は戦場前の空気を帯びた。
そんな中、学生見習いである健太郎と美香にも声がかかる。
管制士が走りながら指示書を手渡した。
「見習いも動員対象! 健太郎くん、美香ちゃん、急いで!」
「な、なんで俺たちまで……」
「学生にここまでやらせる状況って……」
二人は顔を見合わせながらも足早に夜宮のもとへ向かう。
夜宮は振り返らずに言った。
「健太郎。君は霧亜の補助につけ。現場の魔力密度を実地で測る」
「えっ、現場……?」
横で整備員と口論していた霧亜が、慌てて振り返った。
「ちょっと待ってください、夜宮隊長! 彼はまだ訓練すら――」
「霧亜」
夜宮の声が少しだけ低くなる。
「君は彼を過小評価している。……あるいは、守りすぎている」
「……っ」
霧亜は反論しかけて、言葉を飲んだ。
夜宮は健太郎をじっと見据える。
「現場に出れば、君の“何か”が動く。その時を逃すべきではない」
その言葉の意味は誰にも分からなかった。
ただ、夜宮の瞳の奥――とっくに確信を得ている者のそれだった。
健太郎は息を飲む。
「……わ、分かりました。やります」
「いい返事だ」
その瞬間、緊急管制室がさらに慌ただしさを増し、小隊派遣の準備が本格的に動き出した。
こうして、ローカルな“妖精の密入界”で始まった事態は、
ついに世界規模の異変として動き出すことになる。




