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ガーディアン・リヴァース:境界を駆ける者たち  作者: 南蛇井


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日常の朝 — 境界都市カムイの“異常な日常”

朝七時、カムイ市の上空は薄い雲が流れ、初夏の光を跳ね返していた。台所からはトーストの匂い。リビングのテレビでは、いつもの調子でニュースキャスターが言う。


「昨夜、北区十二丁目で小規模な“境界の亀裂”が確認されました。ガーディアン北東支部が対応し、現在は収束しています。周辺住民の避難はありませんでした」


 人間界と他界を結ぶ“境界の亀裂”。本来なら厳格に管理されるべき異常現象。だが、ここカムイ市では、天気予報より軽く扱われる。


 坂上健太郎は、食べ終えた皿を流しに置きながら、つぶやいた。


「……また北区か。最近、あの辺り多すぎだろ」


 テレビの音に反応する家族はもういない。両親は五界条約の事務局勤務で朝から不在だ。返事のない静けさに慣れた健太郎は、鞄を肩に掛けると家を出た。


 玄関を開けた瞬間、湿った風が頬をかすめる。ふと空を見上げると、青の層の奥に何かが細く光った。


 ――スカーチライン。


 境界が擦れるときだけ生じる魔力の“流痕”。風に溶けるようにきらめき、まるで空を誰かが鋭い針で撫でた跡のように残る。


「また深夜に揺れたか……」


 健太郎は立ち止まり、わずかな違和感を胸に覚えた。空気の密度が、ほんの一瞬だけ変わったような。


 だが、横を歩く学生たちは誰一人気にも留めない。

 自動販売機の横では、街角の魔力観測装置〈マナポスト〉が淡い青色に点灯していたが、これも日常の風景の一部でしかなかった。


 通学路を歩きながら、健太郎は眉を寄せる。


(……嫌な予感がする。今日、何か起きる)


 その勘は、ガーディアンとしての訓練で身についたものではない。もっと根源的で、本能に近い。

 本人は知らないが、彼の血に眠る“リヴァース因子”が、境界の揺らぎに敏感に反応している証拠だった。


「おはよー、健太郎。なんか空、また光ってた?」


 後ろから明るい声がして、健太郎は振り返る。


 旭川美香。クラスメイトで相棒。軽く結んだ髪が揺れ、制服の胸ポケットからガーディアン認証カードが少し覗いていた。


「あぁ、北区方面。スカーチが残ってた。……嫌な気配がある」


「だよね。私もマナポストの反応値、微妙に高いの見たし。今日の放課後、支部詰めでしょ?」


「そうなるな」


 普通の高校生の登校風景と、世界の“裂け目”を警戒する会話が同居する。

 この街ではそれが普通だった。


 二人が歩く先の空には、風に切り裂かれたスカーチラインが薄く溶け残っていた。

 カムイ市の異常な日常の始まりである。

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