表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に召喚されたけど、帰る条件が「焦げない鮭を焼くこと」だった 〜千田さん家の裏口は異世界への入口〜  作者: たかつど
焼き饅頭は事件の味

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/35

32話 焼き饅頭殺人事件、八木節裁判!? (3)

 ニュースは一瞬で拡散した。


「千田食品、殺人未遂企業の疑い!」

「婚約者A饅頭詰め事件の真相は?」

「仮死魔法の裏に潜む愛憎劇!」


 テレビもネットも、炎上状態だった。

 そして翌朝。千田家のリビングには、千田(弟)の絶望がこだましていた。


「姉貴ぃ〜〜!! 会社が潰れるぅ!! 法廷だって! 異世界裁判だって!!」


 顔は青ざめ、手には訴状。

 千田食品は、被害者の家族と取引先の両方から訴えられていた。まさにダブルパンチだ。


「姉貴ぃ!俺、どうすればいい!?」

「落ち着きなさい、バカ弟。異世界裁判には異世界のルールがあるの」


 千田さんは、緑茶を一口すすりながら静かに言った。


「……八木節よ」

「は?」

「裁判ダンジョンでの弁護は、リズムと舞で行うの。八木節弁護よ」

「そんなわけあるか!!」


 弟の絶叫を無視して、千田さんはちゃきっと立ち上がった。

 扇子をひと振り。畳の上に魔法陣が展開され、光の文字が浮かび上がる。


  《召喚:裁判ダンジョン・第七階層「炎の審判席」》


 その瞬間、部屋の空気が変わった。

 壁が溶け、床が赤熱し、リビングは異世界の法廷へと変貌したのだ。


 炎の精霊が灯す巨大な法廷。

 中央には、燃えるような審判席。

 両脇には、魔法使いの陪審員たち。

 被告席に立つのは、千田(弟)。

 そして弁護人席には、はっぴ姿の千田さん。


 頭には鉢巻、背中には「正義」の文字。


「姉貴、それ、完全に盆踊りじゃねぇか……」

「静かに!八木節法廷ではリズムが命よ!」


 相手側の敏腕弁魔師、弁護士Cが鋭く睨みつけてきた。

 マントの裾を翻し、開口一番こう言った。


「この事件、被害者は婚約者A。喉に饅頭を詰められ、仮死状態にされた!

 この罪、重きこと火山のごとし! 千田食品、滅すべし!」

「異議あり!」


 扇子を鳴らす音が法廷に響く。

 千田さんの足が動いた。リズムが走る。

 トン、トン、ヒャラリ〜♪


「この事件、見た目は殺人、されど中身はおまんじゅう!

 真実は……もちもちの中にあるのです!」

「何を言っているんだ!」

「八木節に理屈はいらないの!」


 法廷がざわつく。

 陪審員たちがざわざわと囁き合う。

 炎の精霊が「面白い」と拍手した。



 八木節尋問リズム・クロス


「それでは尋問を始めます。リズム、スタート!」


 千田さんの笛の音とともに、法廷の床が動き始めた。

 リズムパネルが浮かび、質問ごとにステップを踏む形式の尋問モードに突入する。


「証人、婚約者Aさん!」


 婚約者Aがふらふらと証言台に立つ。まだ仮死明けで顔色が悪い。


「えっと……あの時、饅頭を……むにゃ……」

「八木節テンポで答えてください!」


 ピィ〜ヒャラ〜♪  Aは戸惑いながらも、リズムに合わせて話し出した。


「た、食べたの〜! 勝手に手が〜! 饅頭を詰め〜た〜!」


 場内、爆笑。

 弁護士C弁魔師が顔を真っ赤にして叫んだ。


「茶番だ! 茶番すぎる!」

「異議却下。八木節裁判ではすべてリズム優先です」


 審判精霊があっさりと認める。



「では、証拠を提出いたします!」


 千田さんは、腰のポーチから八木節扇子を抜き、宙に描いた。

 炎の光の中、魔力の軌跡が映し出される。


「見なさい。この線こそ、従業員Bの魔力パターン!」


 魔力の波形が、八木節のリズムに合わせて踊り出す。

 会場の魔法審査官たちは息を呑んだ。


「確かに、このパターン、恋愛魔法系、嫉妬系呪文に近い!」

「つまり、婚約者Aに仕掛けたのは従業員B本人!」


「異議あり!」と弁護士Cが叫ぶ。

「だが被告は会社全体だ! 企業責任を問うべきだろう!」

「なるほど……ならば、これで答えましょう」


 千田さんの目が光った。


 舞台がせり上がり、法廷は巨大なステージに変わる。

 八木節裁判、最終フェーズリズム決戦モード。


「千田食品は、愛と誠実の会社!

 饅頭に込めたのは――命を救う優しさ!

 仮死魔法? それは休暇魔法!

 死んでなどいない! 彼女は寝ていただけ!

 真実はじっちゃんの名にかけて!」


 笛が鳴る。

 炎の精霊たちが手拍子を始めた。

 弟も、泣きながら手を叩いていた。


「姉貴もう何が何だか分からねぇけど、最高だ……!」

「リズムを感じなさい、弟。真実はいつも三拍子よ」


 その瞬間、法廷全体が光に包まれた。

 八木節のメロディが頂点に達し、審判精霊が立ち上がる。


「判決を言い渡す!

 被告・千田食品――無罪! ただし販促用に『八木節饅頭』を100個納品せよ!」


「八木節饅頭!? 新商品!?」

「宣伝も兼ねてよ。ピンチはチャンスって言うでしょ?」


 こうして、千田食品は倒産の危機を免れた。


 裁判ダンジョンを出た後。

 弟はまだ放心状態だったが、姉はいつものようにお茶をすする。


「姉貴……本当にあれでいいのか?」 

「いいのよ。リズムが勝つ世界なんだから」


 そして、空を見上げて笑った。


 その日、千田食品は奇跡的に株価を回復し、

 そして異世界に新しい弁護スタイル《八木節裁判術》が誕生した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ