32話 焼き饅頭殺人事件、八木節裁判!? (3)
ニュースは一瞬で拡散した。
「千田食品、殺人未遂企業の疑い!」
「婚約者A饅頭詰め事件の真相は?」
「仮死魔法の裏に潜む愛憎劇!」
テレビもネットも、炎上状態だった。
そして翌朝。千田家のリビングには、千田(弟)の絶望がこだましていた。
「姉貴ぃ〜〜!! 会社が潰れるぅ!! 法廷だって! 異世界裁判だって!!」
顔は青ざめ、手には訴状。
千田食品は、被害者の家族と取引先の両方から訴えられていた。まさにダブルパンチだ。
「姉貴ぃ!俺、どうすればいい!?」
「落ち着きなさい、バカ弟。異世界裁判には異世界のルールがあるの」
千田さんは、緑茶を一口すすりながら静かに言った。
「……八木節よ」
「は?」
「裁判ダンジョンでの弁護は、リズムと舞で行うの。八木節弁護よ」
「そんなわけあるか!!」
弟の絶叫を無視して、千田さんはちゃきっと立ち上がった。
扇子をひと振り。畳の上に魔法陣が展開され、光の文字が浮かび上がる。
《召喚:裁判ダンジョン・第七階層「炎の審判席」》
その瞬間、部屋の空気が変わった。
壁が溶け、床が赤熱し、リビングは異世界の法廷へと変貌したのだ。
炎の精霊が灯す巨大な法廷。
中央には、燃えるような審判席。
両脇には、魔法使いの陪審員たち。
被告席に立つのは、千田(弟)。
そして弁護人席には、はっぴ姿の千田さん。
頭には鉢巻、背中には「正義」の文字。
「姉貴、それ、完全に盆踊りじゃねぇか……」
「静かに!八木節法廷ではリズムが命よ!」
相手側の敏腕弁魔師、弁護士Cが鋭く睨みつけてきた。
マントの裾を翻し、開口一番こう言った。
「この事件、被害者は婚約者A。喉に饅頭を詰められ、仮死状態にされた!
この罪、重きこと火山のごとし! 千田食品、滅すべし!」
「異議あり!」
扇子を鳴らす音が法廷に響く。
千田さんの足が動いた。リズムが走る。
トン、トン、ヒャラリ〜♪
「この事件、見た目は殺人、されど中身はおまんじゅう!
真実は……もちもちの中にあるのです!」
「何を言っているんだ!」
「八木節に理屈はいらないの!」
法廷がざわつく。
陪審員たちがざわざわと囁き合う。
炎の精霊が「面白い」と拍手した。
八木節尋問
「それでは尋問を始めます。リズム、スタート!」
千田さんの笛の音とともに、法廷の床が動き始めた。
リズムパネルが浮かび、質問ごとにステップを踏む形式の尋問モードに突入する。
「証人、婚約者Aさん!」
婚約者Aがふらふらと証言台に立つ。まだ仮死明けで顔色が悪い。
「えっと……あの時、饅頭を……むにゃ……」
「八木節テンポで答えてください!」
ピィ〜ヒャラ〜♪ Aは戸惑いながらも、リズムに合わせて話し出した。
「た、食べたの〜! 勝手に手が〜! 饅頭を詰め〜た〜!」
場内、爆笑。
弁護士C弁魔師が顔を真っ赤にして叫んだ。
「茶番だ! 茶番すぎる!」
「異議却下。八木節裁判ではすべてリズム優先です」
審判精霊があっさりと認める。
「では、証拠を提出いたします!」
千田さんは、腰のポーチから八木節扇子を抜き、宙に描いた。
炎の光の中、魔力の軌跡が映し出される。
「見なさい。この線こそ、従業員Bの魔力パターン!」
魔力の波形が、八木節のリズムに合わせて踊り出す。
会場の魔法審査官たちは息を呑んだ。
「確かに、このパターン、恋愛魔法系、嫉妬系呪文に近い!」
「つまり、婚約者Aに仕掛けたのは従業員B本人!」
「異議あり!」と弁護士Cが叫ぶ。
「だが被告は会社全体だ! 企業責任を問うべきだろう!」
「なるほど……ならば、これで答えましょう」
千田さんの目が光った。
舞台がせり上がり、法廷は巨大なステージに変わる。
八木節裁判、最終フェーズリズム決戦モード。
「千田食品は、愛と誠実の会社!
饅頭に込めたのは――命を救う優しさ!
仮死魔法? それは休暇魔法!
死んでなどいない! 彼女は寝ていただけ!
真実はじっちゃんの名にかけて!」
笛が鳴る。
炎の精霊たちが手拍子を始めた。
弟も、泣きながら手を叩いていた。
「姉貴もう何が何だか分からねぇけど、最高だ……!」
「リズムを感じなさい、弟。真実はいつも三拍子よ」
その瞬間、法廷全体が光に包まれた。
八木節のメロディが頂点に達し、審判精霊が立ち上がる。
「判決を言い渡す!
被告・千田食品――無罪! ただし販促用に『八木節饅頭』を100個納品せよ!」
「八木節饅頭!? 新商品!?」
「宣伝も兼ねてよ。ピンチはチャンスって言うでしょ?」
こうして、千田食品は倒産の危機を免れた。
裁判ダンジョンを出た後。
弟はまだ放心状態だったが、姉はいつものようにお茶をすする。
「姉貴……本当にあれでいいのか?」
「いいのよ。リズムが勝つ世界なんだから」
そして、空を見上げて笑った。
その日、千田食品は奇跡的に株価を回復し、
そして異世界に新しい弁護スタイル《八木節裁判術》が誕生した。




