26話 空中庭園ピクニック大作戦!?
「空中庭園」
それは、地下ダンジョンのくせに空に浮かぶという、千田界最大の矛盾構造物である。
重力も理屈もどこかに忘れてきたようなその浮島は、今日も優雅にふわふわと漂っていた。
「さあて、今日は空中庭園でピクニックよ!」
千田さんが勢いよく宣言すると、瑠散はすかさずツッコんだ。
「いや、地下なのに空?理屈おかしくないっすか!?」
「理屈よりロマン! あと今日は映え狙いだから!」
千田さんが杖を振ると、ダンジョンの壁がパカッと割れ、二つの道が現れた。
一つは果てしない螺旋階段。
もう一つは、トーキョータワーみたいな高速エレベーター。
「私はお遍路が好きだから、階段で行きましょう!修行も兼ねて!」
「却下!」
「即答!?」
火・水・風の精霊たちも一斉に叫ぶ。
「千田ちゃん、あの階段8888段あるのよ?」
「足が粉になるわよ?」
「修行ってレベルじゃねー!」
千田さんはほっぺを膨らませた。
「健康って大事なのに〜!」
「健康より命のほうが大事です!」
結局、全会一致でエレベーターを選択。
扉が閉まり、「キィィィン……」という音とともに上昇が始まった。
「うわ、耳が痛いっ!」
瑠散が耳を押さえると、水の精霊がすかさず手を差し出す。
「ちょっと我慢してね。水の膜で保護するから」
「ありがと……でも濡れる!」
「おしゃれは犠牲なのよ」
エレベーターの窓から見える景色はまるで千田界のミニチュア。
炎の塔も福福院の屋根も、豆粒みたいに小さい。
「すげぇ……この世界って、こんなに広かったんだ」
「でしょ? 私の自慢の庭よ!」
「いや庭のスケールじゃない!」
と、千田さんが胸を張った瞬間——
「ガコンッ!」
エレベーターが急停止した。
「え、落ちる!?」
「千田ちゃん!?」
「大丈夫!?」
緊張が走る……が、すぐに無機質な声が鳴った。
《目的地:空中庭園に到着しました》
「びっくりさせんなよぉ!」
重たい扉を抜けると、そこは、光と花と魔法が溶け合う幻想空間だった。
「うわああ……!」
虹色の花壇、ハート形の噴水、芝生には巨大な鮭の絵が田んぼアートみたいに描かれている。
植木はウサギや猫の形、風は甘いミントの香りを運んでくる。
入口には手書きの看板。
利用規約
① ゴミを捨てない
② 草木を荒らさない
③ パンが無ければ八木節を踊れ
「千田ちゃん、それ絶対最後いらないでしょ!」
「いちばん大事よ?」
火・水・風の精霊たちは大はしゃぎ。
炎のジャグリング、水風船バトル、スカートめくり風嵐、完全に遊園地状態だ。
「ここ、某ネズミ王国より自由だな……」
「でしょ? でも土の精霊だけ、まだ来てないのよ」
火の精霊が炎のポンポンを振りながら言った。
「土の連中は空が苦手なの。根を張れないと不安なんだって」
「根を張れない……そりゃ落ち着かんわな」
「でもね!」
千田さんが八木節ステップを踏み出す。
精霊たちがリズムに乗って拍手。
あっという間に庭園はフェス会場に変わった。
「さあ、お待ちかね! 本日のランチはこちら!」
ドンッと登場したのは、千田さん特製・焼き鮭おにぎり弁当。
「うおっ、うまそう!」
「香ばしい匂い〜!」
火の精霊がトーチバーナーで表面を炙り、水の精霊が霧でしっとり仕上げ、風の精霊が花びらを舞わせる。
#精霊ピクニック #映えすぎて逆にダサい の完成だ。
ところが——。
「ふあ〜……においに釣られて来ちゃった〜」
地面がもこもこ盛り上がり、土の精霊たちがぞろぞろ顔を出した。
「やっぱり鮭は土も呼ぶのね!」
千田さんがガッツポーズ。
土の精霊たちはさっそく岩盤テーブルを作り、勝手に庭園を改築し始めた。
「おいおい! そこ噴水の配管!」
「いいじゃん岩盤デザイン!」
風と土の精霊が言い合いを始め、やがて全体がグラグラ揺れ出す。
「え? 今の地震?」
「ちがう、庭園が沈んでる!?」
ハート形の噴水が傾き、虹色の花が宙を舞う。
空中庭園そのものが、ゆっくり沈下していく。
「うそでしょ!?」
「どんだけ土盛ったのよ!」
千田さんが杖を構える。
「みんな、踊るわよ!」
「今それ!?」
「違う! 八木節は地盤安定の儀式なの!」
精霊たちが一斉に手を取り、円を描くようにステップを踏む。
火が輪を描き、水が霧を撒き、風が花を舞わせ、土が震えを鎮めていく——。
「よし……もう一踏ん張り! 瑠散くん、タンバリン!」
「俺!? そんな設定なかったでしょ!?」
「ノリでいける!」
「了解っ!」
瑠散は全力でタンバリンを鳴らした。
リズムが響く。
八木節が共鳴する。
空中庭園が再び上昇を始めた。
「上がってる!?」
「成功だ!」
「ふぅ……これが、音楽の力よ!」
千田さんがどや顔。
周囲は歓声と笑いに包まれた。
危機を乗り越えたあとの鮭は、なぜか格別にうまかった。
パリッとした皮、ふっくらした身、湯気の向こうに広がる安心感。
「生きてるって、ありがたいな……」
瑠散がぼそりとつぶやくと、千田さんが優しく笑った。
「そうね。老いることも、焦げることも、焼き切れることも。全部、命の証なのよ」
「鮭を人生にたとえるのやめて」
火の精霊が泣き笑いでつぶやく。
「焼きすぎ注意だよね〜!」
「うるさい、焦げ担当!」
再び笑いが起きる。
空中庭園の空には、火と水と風と土の光が重なって、まるで巨大なオーロラのようだった。
ピクニックを終えて、エレベーター前。
夕焼け色の雲を背に、千田さんが名残惜しそうに言った。
「やっぱり帰りは階段にしない?」
「却下!」
「じゃあ背負って!」
「もっと却下!」
精霊たちが大笑いする中、千田さんはくるりと一回転して八木節のポーズを決めた。
「食べて!踊って!焦げて!また笑う!それが人生よ!」
「鮭と人生の境界どこ!?」
笑い声ときらめきが、空中庭園の上を流れていく。
今日もまた、千田界に温かい思い出がひとつ増えたのだった。




