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異世界に召喚されたけど、帰る条件が「焦げない鮭を焼くこと」だった 〜千田さん家の裏口は異世界への入口〜  作者: たかつど
ダンジョンは台所の味

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24話 第四階層:紅鮭の仮面舞踏!?

 第三階層を突破した一行の前に現れたのは、

 真紅に染まる石造りのホールだった。


 壁一面に並ぶ銀の皿。

 上には、焼かれたはずの鮭たちがずらりと並んでいる。

 どれもツヤツヤと美味しそうに見えた。


「うわ〜今日の夕飯、ここで済むんじゃないですか?」

 瑠散が口元を拭いながらつぶやく。


「ダメよ、油断は禁物。この階層の名は、《紅鮭の仮面舞踏》。

 焼かれたふりが上手な連中が出るわ」

「焼かれたふりって」


 そう言った途端。

 皿の上の一匹が、ピクッと動いた。


「今、動いたよね?」

「気のせいでしょ」

「いや、絶対動いた!」


 三人の娘ニシ・キタ・ミナミが身を寄せる。

 しん、と空気が張り詰めた。


 次の瞬間。

 皿の上の鮭が、跳ねた。


「シャァァァァァ!!」

「動いたあああああああ!」

「死んだふり系モンスター!?」

「しかも表情うっすらドヤ顔してる!」


 瑠散のツッコミが響く。

 目の前の敵は、擬態魔魚紅鮭オモッタトオリ。

 焼かれたフリが上手すぎて、完全に調理済みの見た目をしている。


「これ、完全に死んだふりしてますね」


 キタが呟くと、紅鮭がピクリと反応した。


「聞こえてるな」


 瑠散が剣を構える。

 が、紅鮭は再び皿にぺたんと伏せ、何もなかった顔をする。


「今のうちに倒せば?」

「いや、なんか悪い気がして」

「情けは無用よ、瑠散くん」


 そう言って、周東さんは懐から紙と筆を取り出した。


「『焼』の文字を、四角で囲って、これが

 新・焼印符術やきいんふじゅつ!」


 ぱしっ、と呪符を紅鮭に貼る。

 すると、まばゆい光が弾け、偽装の殻が破れた。


「ぎょわあああああ!!バレたあああ!」


 紅鮭が悲鳴を上げる。

 その身体は歪み、仮面のような皮が剥がれ落ちていく。

 姿を現したのは——燃えるように赤い、獰猛な魔魚。


「正体見たり、鮭の中身!」

「うるさい」


 周東さんのツッコミが即入る。


「行くぞ焼き鮭の極意!」


 瑠散は杖を構え、全身の魔力を込めて叫んだ。


「鮭ッシャアァァァァァ!!!」


 炎と共に杖を振り下ろす。

 紅鮭の仮面が砕け、眩い光が弾けた。

 残ったのは、黄金色に焼き上がった見事な身だった。


「……やった、のか?」

「ええ。中まで、いい感じに火が通ってるわ」

「焼き加減の話じゃないです!」

「その決め台詞、もう少しなんとかならない?」


 周東さんの冷静なツッコミが的確だった。


 戦いの熱が落ち着くと、

 ホールの中央に仮面がひとつ、転がっていた。


 それは紅鮭の顔だった。

 だが、そこに刻まれた表情は、どこか、悲しげだった。


「これ、笑ってる仮面だと思ってたけど」


 ミナミがそっと触れる。


「ほんとは、泣いてたんだね」


 静寂。

 光が仮面を包み、空へと昇っていく。

 そのとき、周東さんの胸元が淡く光った。


「ママ、それ」


 ニシが指を差す。

 胸元のペンダントから、古い写真がひらりと落ちた。

 写っていたのは、若い周東さんと、ある男性。


「え、これ、周東さんの旦那さん?」


 瑠散が目を見開く。


「そう。

 このダンジョンは、彼が残した食卓の記憶なのよ」


「……!」


「彼は料理が上手だった。

 でも、忙しさにかまけて、私も、娘たちも一緒に食べる時間を失っていった。

 その寂しさが、魔法に触れてこの階層を生んだの」


 周東さんの声は、静かだった。

 紅鮭たちは、家族の味を取り戻したかった料理たちだったのだ。


「ママ、それってこの階層を全部、食べきったら?」


 キタが尋ねる。


「ええ。きっと、私たち家に帰れるわ」


 瑠散は一瞬、何も言えなかった。

 だがすぐ、笑って言った。


「だったら最後まで付き合いますよ。

 どうせ俺、帰る場所ないんで」


 その言葉に、三姉妹が小さく笑った。


「うそ。あるよ。

 ママの台所、今、人数分増えたから」


 周東さんも微笑んだ。


「ようこそ、うちの食卓へ。焼き担当、瑠散くん」


「光栄です。ママさん」


 こうして紅鮭の舞踏は終わり、

 ダンジョンの扉が次の階層へと、ゆっくりと開いていく。


「最終階層、《最強の鮭》——か」


 炎が揺れ、五人の影が伸びた。

 母と娘と少年の冒険は、いよいよクライマックスへ。

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