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異世界に召喚されたけど、帰る条件が「焦げない鮭を焼くこと」だった 〜千田さん家の裏口は異世界への入口〜  作者: たかつど
焼き鮭は炎の味

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19話 チダ公園で火の守護者と弟子入り!?

 十年前の秋の午後。

 気づいたら、私は火の守護者の覗き魔に弟子入りしていた。


 チダ公園は金木犀の甘い香りでいっぱいだった。


「よし、今日こそ栗を大量に拾うぞ!」


 十代の荻野香凜(おぎのかりん)は、まだ幼さが残る顔で大きな籠を抱え、栗の木の下に立っていた。


「栗拾いって、意外と楽しいのよね」


 香凜は金木犀の香りを楽しみながら、落ちている栗を一つずつ丁寧に籠に入れる。


 公園には家族連れやカップルも多く、平和そのもの。…と思った次の瞬間。


 茂みがやけに揺れている。風ではない。明らかに何かがいる。

 恐る恐る覗き込むと――


「ハァハァ……若いっていいわねぇ……(エロ)さが違うわ……」


 いやいやいや、完全にアウトでしょ!

 黒ずくめ、法衣っぽい服装に謎のサングラス。

 しかも望遠鏡でカップルを観察している。


「やばい!完全に不審者!」


 香凜は携帯を取り出そうとするが、声がかかった。


「あら、見つかっちゃったわね」


 振り返ると、そこには美しい女性が。癖っ毛で炎のようなアイライン。


「あ、あなたは……もしかして……」

「そうよ、ワシがゾクヤケシャ様じゃ」


 千田界で知らぬ者はいない伝説の火の守護者。

 グルメ選手権三連覇、最高峰の火使い…そして盗み見癖持ち。


「でも、なんでこんなところで!」

「若者の艶さが足りぬと思ってのう。研究じゃ」

「研究って盗み見じゃないですか!」

「失礼な!炎と艶の修行じゃ!」

「最近の若者、燃えてないのじゃ!情熱が足りんのじゃ!」

「ゾクヤケシャ様、それ公園で叫ぶセリフじゃないです!」


 ……もう笑うしかない。


「そこの不審者!動くな!」


 千田警備隊が駆けつける。常習犯だったらしい。


「ゾクヤケシャ様、また覗きですか」

「またって、常習犯なんですか!?」

「月に一回くらい通報されてるんですよ。でもゾクヤケシャ様だから誰も強く言えない」

「それ、完全に特権乱用じゃないですか!」

「うむ、ワシは千田界の重鎮じゃからな」


 荻野さんは思った。

 千田界は終わった!この人を絶対に誰かが何とかしないとダメだ。

 このままでは千田界の治安が乱れてしまう。


「私、弟子になります!」


 周囲が固まる。


「弟子?なぜじゃ?」

「だって、このままだとゾクヤケシャ様、犯罪者になっちゃいますよ!誰かが監視しないと!」


 師匠、驚きの表情。


「ほう、面白い子じゃな。普通なら逃げ出すところを、弟子入りとは」

「それに、私、火の魔法を学びたいんです。

 ゾクヤケシャ様は千田界最高の火の使い手だって聞きました」

「ふむ……」

「では、試験じゃ」


 ゾクヤケシャ様が手を掲げると、小さな炎が現れた。


「この炎を、心で感じてみなさい」


 荻野さんは目を閉じて集中した。

 すると、不思議なことに炎の温かさが心に伝わってくる。


「温かい……でも、優しい」

「そうじゃ。炎は破壊だけではない。温もりでもあるのじゃ」


 ゾクヤケシャ様の声が優しくなった。


「それから、艶さも大事じゃぞ」

「それは要りません!」


 荻野さんの即答に、警備隊員たちが吹き出した。


「うむ、弟子入りを許そう」

「本当ですか!?」

「ただし、条件がある」


 条件はもちろん…


「条件は、ワシの覗きに付き合うこと」

「絶対嫌です!」

「じゃあ止めないこと」

「絶対止めます!」


 …師匠、絶対無理ゲー


 師匠の表情といい、千田警備隊の苦笑といい、この瞬間から全員が漫才状態である。


「ところで、栗はどうするんじゃ?」

「あ、忘れてた!」

「栗拾いも修行の一つじゃ。自然と向き合うことで、火の本質が見えてくる」

「それ、本当ですか?」

「嘘じゃ」

「正直!」


 自然と向き合うことも修行の一環らしいが、信憑性ゼロ。



 チダプールの隣にあるこの公園は、若者からお年寄りまで大人気のスポットだ。


 深い緑から黄色、オレンジ色へと移ろう木々に挟まれた谷間を、清らかな渡聖川(わたらせいかわ)が力強く流れている。

 岩がちの川岸と、深いV字型の渓谷が自然の雄大さを感じさせる絶景だった。


 ただし、遊具のセンスは謎だった。


 ザイルロープがやけに長いブランコが崖のへりに設置してあり、

 一歩間違えば谷底へ転落しそうな危険な立地でスリルが楽しめる。


 滑り台の滑り降りる角度が急すぎる滑り台、大人が滑ると確実に腰を痛める。


 滑り台の滑る部分がとんでもなく長い滑り台、もはやウォータースライダーかと思うほどの距離。


 麻縄と古い木で出来ている吊り橋、きしむ音が不安を煽る。


 古く懐かしい立たずまいの、手回しによる舞台をもつ芝居小屋。

 時々歌舞伎など上演されている。


 そして極めつけは、42メートルの観音像。

 中に入って頭の部分まで登っていけ、頭の部分は展望室になっている。


 なぜ公園に芝居小屋や観音像があるのかは誰も疑問に思わないのが千田界らしさだった。


 遊歩道では散歩している人が多く、平和な秋の一日だった。



 修行開始


「最初の修行は観音像の頂上に登ることじゃ」


 42メートル。狭く暗い階段を登る。


「ゾクヤケシャ様、なんで火の修行を高いところで?」

「高い場所でこそ、炎の本質が見えるのじゃ」


 理由が適当すぎる。でも師匠の目は本気。


「ゾクヤケシャ様、なんで火の修行をしてるんですか?」

「昔は小豆農家のうめちゃんと呼ばれておった」

「うめちゃん!?」

「そうじゃ。料理下手で何やってもダメだった」


 信じられないギャップ。


「でも師匠はどうやって火の守護者に?」

「師匠に出会ったのじゃ。炎と艶の真髄を学んだ」

「その師匠、絶対おかしいですよ!」

「いや、ほんとに変な人だったんじゃよ」

「……師匠、病院行ったほうがいいですよ」


 さらっと肯定するな。


 頂上に到着。谷間の紅葉と渡聖川、遠くに炎の塔。


「見よ。この景色と同じく、炎も美しく、力強い」


 香凜、深く頷く。


「炎の使い方、理解しました!」


 観音像での修行は漫才化。


「まだ何も言っておらんじゃろ!」

「目が語ってます!」


 警備隊員も思わず笑う。


 栗拾い→覗き修行→観音像登り→火魔法練習…

 ギャグと師弟ドラマが交互に展開される日々。


 こうして、荻野香凜はゾクヤケシャ様の押しかけ五番弟子となった。



 十年後、香凜は立派な火の使い手。

 師匠の覗き癖も健全に、温泉でリラックス程度に落ち着いた。


 秋になると恒例の栗拾い。


「目が怪しいぞ!」

「止めます!」


 平和だが、笑いも止まらない。


「荻野よ、お前はワシの最高の弟子じゃ」

「ゾクヤケシャ様、ありがとうございます」


 あの秋の日、チダ公園での運命的な出会いが、荻野香凜の人生を大きく変えたのだった。


 こうして千田界は今日も平和に、そして少しカオスに過ごしているのだった。

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