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異世界に召喚されたけど、帰る条件が「焦げない鮭を焼くこと」だった 〜千田さん家の裏口は異世界への入口〜  作者: たかつど
焼き鮭は炎の味

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18話 元料理泥棒団ゴボウ千切り修行中!?

 千田界の東の丘の上。そこに、やたら飯の匂いがする寺がある。


 梅鉢山(うめばちやま)福福院(ふくふくいん)


 元「料理泥棒団」が心を入れ替え、改心して住み着いた寺だ。

 今では「精進しつつ美味しい料理探求団(略してS.J.D)」として活動している。


 盗みの心を捨て、今はただ、ゴボウと向き合っている。


「心を無にして! ゴボウを千切りだッ!」


 慈無味導師(じむみどうし)改め住職リーダー・シモトの一声で、団員たちが一斉に包丁を構える。


 ——ザクザクザクザクザクッ!


 地響きのような千切り音。

 床が振動し、天井の梁が「ミシ…」と悲鳴を上げた。


「住職ぅ!ゴボウが細すぎて見えません!」

「それはお前の心がまだ濁ってる証拠だ!」


 ……修行という名の料理バトルである。


 かつて盗みで鍛えた包丁スキルは健在。

 ゴボウも泣くレベルの切れ味だ。


「見ろ!この千切り、髪の毛より細い!」

「住職!僕のゴボウが消えました!」

「悟りを開いたな」


 いや消えたらダメだろ。


 ちなみにこの寺、団員だけでなく、住職の三人の娘も一緒に住んでいる。



・長女ユミズ(18):会計担当。真面目すぎて石像と会話する。

「今月のお賽銭、先月より3円増えました!これは景気回復の兆しです!」


・次女ユレイ(15):野菜に魔力をかけるタイプの天然魔法少女。

「このニンジン、ナデナデすると柔らかくなるんです」

「お前が柔らかいんじゃないか?」


・三女ユエリ(12):鐘マニア。

「鐘を鳴らしたい!」

「1日100回はやめろって言ってるでしょ!」


 そんな三姉妹が住む福福院。

 今日も平和……と思いきや。



 ドドドドドドッ!


 突風とともに現れたのは、千田界の顔役にして八木節の魔導師、千田さんである。


 カーディガン+エプロン+買い物袋。

 どこからどう見てもただの近所の奥さんだ。


「お久しぶりね、シモト住職! ちゃんと精進してる〜?」

「もちろんですよ。泥棒してた頃が嘘みたいです」

「えらいえらい。じゃ、今日は習字対決でもしましょうか!」

「なんで突然!? 修行中なんですけど!」

「八木節のリズムで字を書きたい気分なのよ!」


 来たよ、嵐が。



 会場は本堂裏の「魔法習字の間」。


 天井には護符、床には墨よけの結界。

 つまり、ここで暴発したら普通に爆発する。


 司会はユレイ。鐘は封印済み(重要)。


「それでは第一の題、『こころ』!」


 千田さん、筆を構える。

 一筆目——ビューン!


 風が舞い、桜色の煙が立ち上る。


「心」の文字が宙に浮かび、ふわっと笑顔になる。

 もはや魔法の域だ。


「おお〜!さすが千田さん!」

「心が温まる〜!」


 一方シモト住職、集中して「心」と書く。


 すると——。


 墨のしずくが湯気になり、そこから胡麻豆腐が出現した。


「出たぁ!心から胡麻豆腐!」

「どんな心だよ!?」

「これが……悟りの味だ」


 団員たちは泣いた。

 理由はわからないが、泣いた。



 第二の題:「静寂」


 千田さんの筆が走る。

「静」の文字を書いた瞬間、空気がピタリと止まる。

 次の瞬間、「寂」が書かれ——。


 チリン……。


 風鈴の音が響いた。

 あまりの完成度に、団員が一人、感極まって気絶。


「千田さん、もはや書道界のラスボス……」




 対するシモト住職。


「静寂」と一気に書き上げた!


 その瞬間、空間に——。


 鐘。


 ゴォォォォォ〜〜〜ン!


 ……鳴った。


「ユエリ!今じゃない!」

「つい!手が!」


 やっぱり鳴らした。


 場内が一気に禅モードになり、団員たちが全員、座禅ポーズで眠り始める。


「南無〜……」

「寝るなぁ!!」



 第三の題:「和」


 最終決戦。


 千田さんが筆を構える。


「いっくわよ〜!」


 ドンッ! 八木節のリズムとともに筆が動く。

「和」の文字から、虹色の光があふれ、会場がほわっと温かく包まれた。

 観客全員が思わず「はぁ〜…」とため息をつく。

 これが、心を和ませる八木節魔法書道。


「……反則だろこれ」


 対するシモト住職も負けていない。


「和」の一文字を書いた瞬間——。


 精進料理フルコースが出現。

 胡麻豆腐、山菜の天ぷら、ナス田楽。


「出たぁ!書いて出す系魔法料理!」

「これは……心が和むどころか腹が減る!」


 審査結果:引き分け!


 歓声と湯気と鐘の音が、会場を満たした。




「千田さん、見事でした」

「いえいえ、あなたの胡麻豆腐も美味しかったわ」


 千田さん、にっこり微笑む。


「書道ってね、心を映すの。

 だから『こころ』を書いたとき、胡麻豆腐が出たあなたは正しいわ」

「そういう解釈でいいんですかね」


 団員たちは全員、涙と腹の虫をこらえて拍手した。

 そこにユエリが恐る恐る近づく。


「千田さん、今度一緒に鐘を鳴らしませんか?」

「いいわねぇ〜!八木節のテンポで鳴らしましょう!」


 地獄の鐘リミックス誕生の瞬間である。


「やめてぇぇぇ!」

「ゴォォォォォン!!」


 近所の窓ガラスがビリビリ震えた。



「はぁ……鐘の音がまだ頭に残ってる……」


 そんな中、千田さんはお茶をすすりながら笑った。


「そういえばシモトさん、とーちゃんさん見つかったのよ」

「え!?ほんとですか!?」

「ええ、今は家で植木の剪定してるわ。」

「でもね、あの人が帰ってきてくれて、本当にうれしいの」

「良かったですね、千田さん」

「ええ。だから今日はお祝いに来たの。あと胡麻豆腐食べたくて」

「結局食い気か!!」


 日が暮れる頃、千田さんは帰り支度をした。


「今日はありがとう。とっても楽しかったわ」

「こちらこそ。またお越しください」

「ええ、今度は『八木節×精進料理フェス』をやりましょう!」

「やめてください。マジで鐘割れます」


 笑い声が本堂に響いた。




 そして夜。


 月が出たころ、ユエリがそっと鐘を一回だけ鳴らす。


 ゴォォォォン……


 柔らかく響く音が、千田界の夜空に溶けていった。


 住職シモトは空を見上げて、静かに呟いた。


「今日も平和だ……(ちょっとうるさかったけど)」



 こうして——

 元料理泥棒団の精進生活は、今日もゴボウのように続くのであった。



 この日をきっかけに、福福院では「魔法書道部」が発足。

 初代部長はユレイ、顧問は千田さん。


 ただし練習中に鐘が鳴る率、98%。

 近隣からのクレーム率、99%。


 ——それでも、みんな笑って暮らしている。

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