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異世界に召喚されたけど、帰る条件が「焦げない鮭を焼くこと」だった 〜千田さん家の裏口は異世界への入口〜  作者: たかつど
焼き鮭は炎の味

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17話 八木節炎継承儀式eccentric覚醒!?

 夜が、炎の塔の頂で、ゆっくりと赤く熟していく。


 空には大きな月。

 その光が、塔を囲む溶岩湖に反射して揺れていた。


 熱を孕んだ風が吹き抜ける中、ゾクヤケシャ様がふわりと浮かび上がる。

 紅蓮の法衣が夜空に映え、その姿はまるで燃える女神のようだった。


「さて、始めるとしようかのう『八木節炎継承儀式』!」


 塔全体が低く唸り、赤い紋章が地面を走る。

 炎が床を覆い、やがて二人の前に集まった。


 並び立つ二つの影。


 一人は、踊れば風が起き、叫べば味噌汁が沸く八木節魔法の使い手千田さん。

 笑えば炎が灯り、踊れば人の心を温める。


 もう一人は、つい先日まで犬だったが、解呪の儀で本来の姿を取り戻した男。

 かつて「オヤジさん」と呼ばれていた——夫とーちゃんである。


 塔の熱気が、ふたりの前髪をふわりと揺らす。


「千田界、開祖以来初の夫婦同時継承者じゃな。しかも片方は元犬とは……」


 ゾクヤケシャ様は、妖しく笑った。


「これは(エロ)い……いや、エキサイティングじゃ!!」


「また出た、師匠の艶発言!」

「ゾクヤケシャ様、それギリギリですよ!」


 弟子たちのツッコミが一斉に飛ぶ。

 ゾクヤケシャ様は杖をくるりと回して、鮭の形をした宝珠を先端に輝かせた。


「よかろう。ならば見せてもらおうかのう——

 普通じゃない方の八木節を!」


 千田さんととーちゃんは、目を合わせてニヤリと笑った。


「いっくよ〜、とーちゃん!」

「おうよ、かーちゃん!十年ぶりの夫婦共演じゃな!」


 足拍子、一発。


 ドンドン、カンカン、ドドンッ!


 音が鳴った瞬間、塔全体が呼吸を始めたかのように脈動した。


 舞は八木節。

 だがその衣装は紅蓮の羽織。

 背には燃える団扇、頭上には提灯の光。

 踊るたび、空気が振動し、炎がリズムを刻む。


 とーちゃんが植木ばさみを高く掲げる。

 刃の軌跡に火が生まれ、炎の模様が空を描く。

 それはまるで、夜空に咲く花火のようだった。


「ほう……踊りと炎を融合させるとは。しかも剪定魔法とはな」


 ゾクヤケシャ様の瞳が、興味深げに光る。


 太鼓の音が響き渡る。


「そうかい そうかいな〜! 夫婦、ヤンチキどっこいしょ〜愛情っ!!」


 八木節のリズムが加速し、二人の足元から紅蓮の花が噴き上がる。


 ——八木節魔法(やぎぶしまほう)eccentric(えくせんとりっく)、覚醒。


 太鼓を打てば空が鳴り、

 団扇を振れば炎の蝶が舞う。

 千田さんの笑い声が炎を呼び、

 とーちゃんの動きが火流を制御する。


「すげぇ……! これがeccentric……!」

「とーちゃんの腰つき、キレッキレじゃな!」


 ゾクヤケシャ様は宙を舞いながら、頬を染めて笑った。


「八木節、炎、愛、そして少しの艶さ。これぞeccentricの真髄じゃ!」


 踊りの最高潮。

 二人の炎が交わり、巨大な光輪を生む。


「いくよ、とーちゃん!」

「ああ、行こう、かーちゃん!」


 二人が両手を合わせた瞬間——炎が天へと弾けた。

 紅と金の龍が空を走り、塔の屋根を突き抜けて咆哮する。


 轟炎八木龍(ごうえんやぎりゅう)——顕現。


 炎の龍は、八木節のリズムに合わせて舞い、

 その鱗が花火のように光を放つ。


「こ、これは……!?」


 弟子たちが口々に叫ぶ。

 ゾクヤケシャ様は目を細め、うなずいた。


「認めよう。おぬしたちが第六代・炎の継承者夫婦じゃ」


 空中から二本の炎の箸が降り注ぐ。

 千田さんととーちゃんが、それを受け取った。


「この箸で焼く鮭は、ただの焼き魚ではないぞ。

 魂を踊らせ、心を焦がす炎の舞い焼きとなるじゃろう」


 広間の炎が静まっていく。

 熱気が和らぎ、夕日が塔の窓から差し込む。


 とーちゃんが額の汗を拭いながら、ぽつりと呟いた。


「しかし、十年間犬だったせいでまだ人間の体がむずがゆいな」


「あら、とーちゃん。それってもしかして」


 千田さんがニヤリと微笑む。

 ゾクヤケシャ様の目がギラリと光った。


「おおっ! やはりそういうことか! 

 炎と艶は切っても切れぬ仲じゃからな!」

「ちょ、ちょっと師匠! 話の方向が!」

「ゾクヤケシャ様、それアウトです!」


 弟子たちのツッコミが飛ぶ中、

 千田さんは頬を染めつつも堂々と胸を張った。


「ま、まあ、確かにとーちゃんと人間の姿で踊るのは久しぶりですからね」

「ははっ、犬の頃よりも今のほうが動きやすいな」

「よしよし! 熟年のふたりは今夜、温泉で炎の湯気修練でも——」


「ゾクヤケシャ様ぁぁ!!!」


 みんなの声が揃った。


 場の空気が笑いに包まれ、

 塔の天井から火の鳥がひらりと降りてきた。


 その翼は、まるで祝福のように二人の肩に降りかかる。


 ゾクヤケシャ様は、ふっと真剣な表情を取り戻した。


「……冗談はさておき」


 彼女はゆっくりと手を合わせた。


「千田さん、とーちゃん。おめでとうじゃ。

 この炎を、千田界の平和のために使ってくれい」


 二人はうなずいた。


「もちろんです。踊りは人を笑顔にするためのものですから」

「炎は、家族を温めるためのもんだ」


 ゾクヤケシャ様は満足そうに頷いた。


 塔の外から、やわらかな声が聞こえてくる。


「今日の鮭、うまく焼けました!」


 それは、鳥内瑠散の声だった。

 遠くの厨房で、彼が焼いた鮭の香りが風に乗って届く。


「あの子も、なかなかの使い手になったのう」


 ゾクヤケシャ様は微笑む。


 塔の火は穏やかに揺れ、夜の風が吹き抜けた。

 千田夫妻は肩を並べ、静かに立つ。


「とーちゃん」

「なんだい、かーちゃん」

「次の八木節は、あの子たちと一緒にやろうか」

「おう。そいつは、燃えるな」


 そして、ゾクヤケシャ様は空を見上げながら、

 こっそりと呟いた。


「……さて、ワシは温泉の準備でもするかのう」


 その声に、弟子たちが一斉に振り向く。


「聞こえてますよ、師匠!!」


 ——炎の塔に笑い声が響き渡る。


 千田界の夜は、今日も温かかった。

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