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異世界に召喚されたけど、帰る条件が「焦げない鮭を焼くこと」だった 〜千田さん家の裏口は異世界への入口〜  作者: たかつど
オヤジさんは鮭の味

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11話 千田邸の八木節ガーデン!?

 千田さん()の庭は——おかしい。

 何がおかしいって、異世界につながってる。


 いや、マジで。


 表向きは、近所でも「ご立派なお屋敷ですね〜」って言われるような、普通の(ちょっと豪華な)家。

 白い門に立派な芝生、きれいに整った花壇。

 だけどその庭の奥には、千田邸があって家の中は『千田界』。


 僕が修行してる「炎の塔」とか、あの鮭ダンジョンとかも、ぜんぶそこにある。


 ……まぁ、こうやって平然と話してるけど、最初は信じなかった。

 まさかご近所の奥さんが異世界の主婦戦士だったなんて、誰が思う?



 その日、僕は千田さん()に焼き鮭修行の報告に行った。

 門を開けた瞬間、チョキン、チョキンってリズミカルな音が聞こえてくる。


「おー、やっぱり庭いじりしてる……」


 植木の手入れをしていたのは、千田とーちゃん。

 この人、つい最近まで犬だった。

 しかも「オヤジさん」って名前で、僕がよく腹の上に乗せて昼寝してた、あの小型犬だ。


「いやぁ、人間の体ってのは便利だな。ハサミがちゃんと使える!」

「……お帰りなさいとーちゃん、人間界へ」

「はは、ありがとうよ。犬時代も悪くなかったがな」


 バサミをカチンと鳴らすその姿、妙に板についている。

 犬のときから、庭の手入れは完璧だった。

 どこか哲学者みたいな犬だったし。


 と、そこへ、ひらりと白い影が降りてきた。


「やっぱり戻ってたのね。おめでとう、とーちゃん」


 白い日傘を差したのは折茂(おりも)さん。

 年齢不詳、笑うと花が咲き、怒ると風が吹くって噂のご近所さん。

 でもその正体は、千田界の古参魔法使い。

 地味に最強クラスだと聞いてる。


「お、おう。まぁ、なんだかんだで戻れたわ。犬の頃も悪くはなかったけどな」

「ふふ。確かに散歩の姿は絵になってたわ。でもね……」


 折茂さんが庭を見渡す。

 その表情が、すっと真剣になった。


「魔力の流れ、まだ不安定よ。ツタが暴れるわ」


 言った直後、ドォォォン!と地面が揺れた。

 庭の奥から、緑色の何かが勢いよく飛び出す。


「ツタだああああ!?」


 地面を突き破って伸びてくる巨大な植物。

 まるでジャングルの怪物みたいだ。


「またか……!」

 とーちゃんが剪定バサミを構える。


 どうやらこの庭、異世界とつながってるせいで、たまに魔力が暴走して植物が暴れるらしい。

 普通の庭じゃない。異世界付きの庭だ。


「千田さーん!出番ですよー!」


 折茂さんの声が響く。

 その瞬間、玄関の扉が勢いよく開いた。


「任せてっ!」


 出てきたのは、八木節の衣装を着た千田さん。

 腰には扇子、背中には気迫、目には闘志。

 どこからどう見ても異世界の戦士、ただし主婦。


「この庭、荒らすなんて許さないわ! 八木節魔法——式一番!」


 ぱん! と扇子を開いた瞬間、足元に魔法陣が浮かび、

 どこからともなく太鼓の音が鳴り響く。


「いーやっそぉだ! ヤンチキどっこいしょー!」


 風がうなり、花びらが舞い、彼女の舞がツタを切り裂いていく。

 まさに踊る退魔師!

 というか八木節で攻撃って、どういう理屈だ。


「おいおい、俺も負けてられんな!」


 とーちゃんもバサミを構える。

 その動きに呼応して、庭木たちがざわめき出した。


「植木ってのはな、剪定で語るんだ!」


 とーちゃんのバサミがキィン!と鳴るたび、木々の枝がツタを押し返していく。

 まるで庭そのものが意思を持ってるみたいだ。


「かーちゃん! 合わせるぞ!」

「了解っ! 風、走れぇぇぇ!」


 風と枝と太鼓のリズムが重なる。

 ツタが揺れ、木がうなり、空気が踊る。


「いけぇっ! 奥義——八木節植木剣舞!!」


 とーちゃんの剪定バサミが閃き、ツタの根元を真っ二つに。

 ドゴォォン!と爆音が響いたあと、庭の光が一気に静まった。


 ……戦闘、終了。


「ふぅ〜、危なかったわねぇ」


 千田さんが汗をぬぐう。

 衣装は土まみれなのに、どこか誇らしげだ。


「まるでミュージカルだったわね」


 折茂さんがぱちぱちと拍手。


「八木節でツタ退治、庭芸術祭があったら優勝よ」

「それ、いいかも! 今度開催しようかしら?」

「やめとけ、近所迷惑だ」


 とーちゃんのツッコミが入る。

 そのやり取りに、僕は笑ってしまった。


「いや〜、やっぱりこの家すげぇっすね。普通の庭じゃない……」


「普通じゃつまらないでしょ?」


 千田さんがにっこり笑う。

 その笑顔がまた怖い。いや、頼もしい。

 折茂さんが空を見上げてぽつりと言う。


「……昔はもっと、ざわざわしてたわね。この庭も。『焼く派』と『蒸す派』の戦争のころ」


「あー、聞いたことあります!」


 千田界を二分した鮭の調理法戦争。

 あの伝説のバトルがここにも響いてたらしい。


「でも、いまは平和ね」


 とーちゃんがハサミを肩に乗せる。


「平和ってのは、いいもんだ」


 風が木々を揺らし、庭が「おかえり」と囁くようだった。


「千田さーん! 今日の鮭、うまく焼けましたー!」


 はい、僕の登場シーン。

 門の向こうから声を張り上げた。

 抱えているのは、炎の塔で焼いた修行の成果、黄金色の焼き鮭だ。


「あら、瑠散くん! 来てたのね!」

「焼き具合、見てほしくて!」

「素晴らしいわ。じゃあ次は八木節焼きに挑戦してみましょう!」

「八木節!? 焼き方の問題じゃなくなってません!?」

「リズムが命よ、リズムが!」

「……俺、また犬になる気がする」


 とーちゃんが真顔で言った。

 僕は苦笑しながら、鮭を差し出す。

 千田さんが受け取って、一口食べた。


「うん、美味しい! 焦げの香りが踊ってる!」

「踊ってるってどういう味覚ですか!?」

「鮭がリズムを刻むのよ、わからない?」


 いや、わからない。

 でも嬉しそうに笑う千田さんを見てると、まぁいっか、と思えてしまう。


 日が傾き、庭に夕陽が差す。

 折茂さんは静かに日傘をたたみ、とーちゃんは最後の枝を整えていた。


「……俺、犬だった十年間、悪くなかったと思うよ」

「どうして?」と千田さん。


「お前が毎日、犬に話しかけてたからな。犬でもちゃんと聞こえてた。——おかえりって」


 千田さんの目が、少しだけ潤む。

 でも、すぐにいつもの調子に戻って笑った。


「そりゃそうよ。うちの庭はね、家族でできてるんだから」

「ははっ。言うねぇ、うちの八木節女将は」


 折茂さんが日傘をくるくると回して微笑んだ。


「いい庭だわ。異世界でも現実でも、こんな場所はそうないのよ」


 風がやさしく吹いて、花々が踊る。

 どこか遠くで太鼓の音が聞こえた気がした。


「さて、次の修行は八木節バーベキューね!」

「え、また!? 絶対爆発するやつじゃないですか!」

「いいじゃない! 盛り上がるわよ!」

「俺、今度こそ逃げるぞ!」


 とーちゃんが叫び、みんなで笑った。


 異世界の門がゆるやかに光を灯す。

 花々がふわりと揺れ、風が八木節のリズムを刻む。


 千田界の庭は、今日も平和で、ちょっと騒がしくて、やっぱり最高だ。

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