〝モノクロームな世界〟
感情で動くことが正しい人間の在り方です。キミがいま食べたいと思っているチョコレートをボクが砕こうとしているのも立派な愛情表現。ボクはキミが好きだけど、キミがボクを好きだという証拠が何もない世界で、ボクはいつまでキミを好きでいられるのかな。
感情で動く動物が理性で動くロボットと喧嘩して生まれたヒトが誇れるもの。キミを動物ではなく人間にしている唯一のものがボクに対する憎しみなら、ボクを人間ではなくロボットにしている唯一のものがキミに対する憐れみだった。
イチョウ並木の下でキミが手帳に綴っている文字を詩だとキミ自身が認めるまで、ボクはキミに好きだって言い続ける。
タイムリミットはもうとっくに過ぎている。ゴールラインから逆走することで始まるリスタート。知らないアパートの壁にえがいた星座から落ちたチョークの粉にまみれた猫の鳴き声で目を覚ましたボクは、チョコレートの匂いをたどって泣いているキミを見つけた。
朝焼けが綺麗な空。泥棒になりたいから嘘をつき始めたキミの目から見た世界は灰色で悲しいってキミは言うけれど、カラフルな世界がモノクロームな世界よりも美しいと考えることは明らかな間違いで、ボクがキミを心から憐んでいる理由はそこにあった。
ボクはキミが好き。キミはボクが嫌い。そんな単純なことを告げるためだけにくどくどと回り続ける世界はめんどくさくて、でもだからこそボクたちは——。
火山から吹き出した星。井戸に住むカエルが動物園に住むカラスよりもずっと幸福なことを教えてくれたキミがいちばん不幸な顔をしているのが、ヒトという種族の最大の欠陥でした。




