53/88
〝月の裏側〟
もしも世界が終わるなら
みんなが眠っているあいだにして欲しい
そうすれば
だれも悲しまなくてすむから
月の裏側を想像して
幻滅したくないから
授業をサボったあの頃
脱ぎ捨てたブレザーの
ポケットに詰まっていたのは
果てなき未来への
どうしようもない愛だった
痛みを与えるのが怖くて
だれとも向きあってこなかった
孤独を信じた日々
もしも何かに生まれ変われたのなら
世界になりたかった
天体観測をしながら
奏でる鼻歌の心地よさを
知らない人が書いた絵本
ベストセラーになるのが許せなくて
買い占めたあとに気づいたのは
限りある未来への
どうしようもない愛だった
痛みを受け入れるのが悔しくて
だれとも向き合ってこなかった
世界を愛した日々
もしも何かに生まれ変われるのなら
だれかになりたかった
もしも世界が終わるなら
みんなが眠っているあいだにして欲しい
そうすれば
だれも苦しまなくてすむから
もしも世界が終わるなら
みんなが眠っているあいだにして欲しい
そうすれば
だれも怖がらなくてすむから




