小さな誓い
朝の森は、霧に包まれていた。
淡い光の中、タクトは目を覚ました。
隣では、リアが剣を抱えたまま、ぐっすりと眠っている。
その向こうで、アリアが火を絶やさないように薪をくべていた。
小さな焚き火の音が、しんしんと耳に優しい。
タクトは、ぼんやりと空を見上げた。
(ここは……本当に、異世界なんだな)
少しだけ、胸がぎゅっとなる。
そんなとき、アリアが小さな声で言った。
「……怖い?」
タクトは、びくりとした。
でも、すぐに苦笑して首を振る。
「怖くないって言ったら、嘘になるかな」
「でも、もう……逃げたくはない」
自分の声が、意外なほど、しっかりしていた。
アリアは、静かに笑った。
「……なら、いい」
そして、小さなナイフを取り出す。
タクトが驚いていると、アリアはナイフで自分の指先をすっと切った。
細い血が一滴、火の中に落ちる。
「誓おう。ここで出会った、みんなで」
「私たちは、裏切らない」
「できるかぎり、守り合う」
タクトは、はっと息を呑んだ。
リアも目を覚まし、ぼんやりしながら聞いている。
「……誓い?」
リアが、かすれた声でつぶやいた。
アリアは、にっこりと笑って、うなずく。
「不安でも、怖くても……」
「それでも、信じてみる」
焚き火の煙が、空へと溶けていく。
タクトは、ゆっくりと手を伸ばした。
ナイフを受け取り、自分の指を軽く切った。
小さな血の雫が、焚き火に落ちた。
リアも、迷いながら、それに続く。
三つの小さな誓いが、炎に吸い込まれた。
ぱちん、と火花が跳ねた。
それはまるで──
この小さな旅が、ようやく「仲間」になった証みたいだった。
タクトは、静かに胸に誓った。
(必ず、みんなで、生きて帰る)
霧の向こうで、朝日が少しずつ、森を照らし始めていた。