ss1 リアの日記
その日も、リアはひとり、剣を磨いていた。
空は曇って、風が冷たい。
森の中の、古い小屋。
雨をしのぐためだけに建てられた、誰にも気に留められない場所。
リアは、硬い布で剣の刃をこすりながら、小さく息をついた。
(……また、ひとりぼっちか)
もともと、ひとりだった。
誰かと一緒に笑った記憶も、
誰かに頼られたことも、
ほとんどなかった。
だからこそ、強くなりたかった。
剣を握り続けたのは、
誰かに「必要だ」と言ってもらうためだった。
リアは、ぼろぼろのノートを取り出した。
表紙に、「リアの日記」と、子どもっぽい字で書かれている。
ペンを握り、震える手で、今日の日付を書いた。
──『また誰にも勝てなかった』
──『また誰にも認めてもらえなかった』
ぎゅっと、歯を食いしばる。
──『でも、まだ終わりじゃない』
──『剣を磨いて、もっと強くなる』
──『いつか、誰かのために戦えるように』
──『誰かに、必要だって言ってもらえるように』
涙が、滲んだ。
でも、リアは泣かなかった。
ペンを置き、日記を閉じる。
「……絶対に、あきらめない」
小さな声で、誓った。
そのとき。
雨の向こう、森の奥から、誰かの歌声が聞こえた。
遠く、かすかに。
温かく、寂しさを溶かすような歌声。
リアは、はっと顔を上げた。
(誰だろう……?)
剣を抱えて、リアは小屋を飛び出した。
雨に濡れながら、歌のするほうへ、走った。
──それが、タクトたちと出会う、ほんの少し前の話。
夜の森の中で、リアはまだ知らなかった。
これから、自分が「守りたい」と思える仲間たちと出会うことを。
そして、本当に「必要だ」と言ってくれる人に、出会えることを──