俺の大好きな唐揚げのコンビニのお弁当が上げ底だった件
工場勤務の俺はいつもコンビニ弁当で昼食をとる。
今日は月曜日。
大好きな唐揚げのお弁当で週初めの午後を乗り切るつもりだ。
この『若鶏のこんがりニンニク醤油仕立て唐揚げ弁当』はたったの500円。
そして、その価格に似合わない豊満なご飯に、脂ののった艶めかしい唐揚げ。
午後を乗り切る十分なカロリーがそこにある。
蓋を開ける。
立ち上る湯気が芳醇な香りを纏って鼻腔をくすぐる。
黄金色に輝く唐揚げ達は、まるで美しく焼き上げられた芸術品のように、黒い容器の上で艶やかな油を纏いながら上品に横たわっている。
俺は唐揚げ達に優しくマヨネーズを絞り出す。
濃厚で白く滑らかな流れが、唐揚げの表面を優しく包み込むように降り注ぐ。
箸を伸ばし、唐揚げをそっと口元へ運ぶ。
ひと口齧る。
中から肉汁が溢れ出す――熱く、濃密で、舌に絡みつく旨味の波動。
あゝ、幸せなひと時。
俺は唐揚げを堪能しつつ、スマホでニュースをチェックする。
そこには、コンビニ弁当の上げ底炎上の記事。
まさか!
俺は箸でツヤツヤのご飯をそっと剥がし、凹凸が目立たない漆黒の容器を露わにする。
斜め15度の傾斜。
至福な時間を迎えていた俺の心は転がり落ちた。
「俺の……俺の大好きな唐揚げ弁当は上げ底だったのか……」
『……ごめんなさい、騙すつもりはなかったの……』
弁当が喋った??
いや、そんな事はどうでもいい。
あんなに愛していた唐揚げ弁当が上げ底だった……
『……本当にごめんなさい……私を……嫌いにならないで……』
震えるような声とともに、唐揚げのマヨネーズがポトリと垂れる。
「上げ底なんかしなくても、君は十分に美味しくて魅力的だ。なぜそんな事をしたんだ?」
『男の人は見た目で判断するから……男の人って、ボリューム感ある弁当が好きなんでしょ』
「そうだ。でも、早めに言って欲しかった。上げ底だったことを……お買い得感は薄れるが、この美味しさだったら君を選んでいた」
『他のコンビニもやっている事なの……』
俺は弁当の浅はかな弁明を聞きつつ、唐揚げ弁当を食べ終えた。
気候変動、世界情勢、円安による原材料費の高騰。
それが唐揚げ弁当を上げ底にさせたのかもしれない。
しかし、モヤモヤが残る。
結局、俺はそれ以来、あの唐揚げ弁当を買うことはなかった。
やはり、騙していたという疑念を拭いきれなかったのだろうか。
そして、俺はこれから弁当を選ぶ時は、見た目に騙されず、しっかり中身を見ていこうと心に誓うのであった。