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06_開始

「なんとっ?!最下層から生還なさったのですかっ?!」

「ええ、まぁ……。」

ダンジョンから生還した私は、軍施設に案内され、湯浴みして服も新しい物を貰った。

そしてそのまま、軍の関係者に事情を聞かれることになった。

「いやぁ、皆さんからはサトコさんが誤って「穴」に落ちてはぐれてしまった、としか聞いてなかったのです。おまけに、その直後に災害級の魔物が現れたと聞いて、生存は絶望的と結論付けてしまいました。大変、申し訳ありません。」

あいつら、そんな都合良く説明してたのか。

「ま、まあ正直、私ももう駄目だと思いましたからね。……ところで、「災害級」の魔物って何ですか?」

「ああ、失礼しました。これは魔物の脅威度を表したものです。通常、軍も冒険者達も人が対処出来る範囲の魔物を、脅威度が高い順にらA級からF級までで表します。そして、人が手出し出来ない、A級以上の魔物を「災害級」と呼ぶのです。」

「へぇ〜。」

「勇者の皆様から、巨大な蛇を見たと報告いただきましたので、証言から災害級の魔物と認定しました。そのため、あのダンジョンは閉鎖したのです。勇者の皆様は、別のダンジョンへ移動していただきました。」

あの大蛇、やっぱとんでもない魔物だったんだな……。

そして、やっぱり皆もアレを見たんだ。

ま、あんなのが居るとなったら、そりゃあ閉鎖もするか。

「そんな危険なダンジョンから、よくぞ生還なさいましたね、サトコ様。」

「あ、そうです!脱出するまでに、たぶんスキルを授かったと思うんですが、確認のため「鑑定の宝玉」を使わせて欲しいです!」

「ほうっ?!新しいスキルを?構いませんよ。こちらにも置いておりますので、案内いたします。」

やはり軍施設だけあって、ちゃんと設置されてるらしい。

私は異世界に来た初日の不安な気持ちとは違う、軽やかな気分で「鑑定」に向かった。


**********


『瘴気使い』

『混沌の導き手』

この二つのスキルを、私は新たに授かっていた。


「ううむ……、聞き慣れないスキルですなぁ。」

「あ、やっぱり?」

何と言うか、不穏なスキル名だ。

「『瘴気』って、なんでしょう?」

「そうですなぁ……。私も聞きかじっただけの知識ではありますが、邪悪な魔物の放つ気配や、その影響範囲には「瘴気が漂う」と言う表現をする事がありますな。」

ああ、なんとなく分かった。

『瘴気』とは「毒闇」の事だ。

過去に邪悪な魔物が居たのか、または今現在、あの最下層に住む魔物が放ち続けているものか、それともその両方か。

いずれにせよ、あの最下層には『瘴気』が充満していた訳だ。

そこでそれを吸収したり色々したから授かったのだろう。

じゃあ、『混沌の導き手』は?


よぐ分がんない!


たぶん、中層で魔物を狩りまくってたら授かったので、魔物を多く倒すのが条件かな?

……でも、それだけなら冒険者さんとかも持ってておかしくない。

それなのに、珍しいスキルと言う事は、他にも条件があるのかな?

強い魔物をたくさん倒すとか、「毒闇」もとい『瘴気』で倒すとか。

……ま、良いか。


よし!

スキルも分かった所で、そろそろ……。

「……あの〜、ところで他の皆の所に私も行けますか?」

「ええ、もちろんですよ。皆さんも、さぞお喜びになることでしょう。」

真面目な兵士さんっぽいオジサマは、そう言ってくれるけれども……。

それはどうかなぁ?

本当に「誤って「穴」に落ちた」のなら、言ってるような事もあり得るのかも知れないけどね。


**********


「あ〜、疲れた!」

「…でも、だいぶ連携とか上手くなってきたよな?オレ達!」

「そうそう。皆、自分のスキルを活かせるようになってきたし。」


ここは勇者達の訓練用ダンジョンの近くに建てられている軍施設。

コウジ達は今日の訓練を終えて、ぞろぞろと帰ってきた。

「ハァイ!お疲れ〜!」

そんな彼らに、私は声を掛けた。

手なんかもヒラヒラさせてみる。


「「──っ?!?!」」


うん、皆いっせいに固まったな。

そりゃあ、死んだはずの人間が現れたらそうなるか。

……ましてやそれが、やましい事をして死なせた人間なら、なおさらね。

「……サト、コ?」

「そうよ?何、たった半月で忘れちゃった?夏休みなんかは、一ヶ月以上会わなくたって覚えてくれてたのに?」

「……本物だ。どうやって、あんな……。」

まあ、疑問だわな。

私がどうやって這い上がって来たのか。

「ま、それは良いじゃん?」

うん、そんな事は些末な話だ。

「な、なんでここに来たんだよ?」

コウジが聞いてくる。

「そんなの、御礼しに来たに決まってるじゃん?」

「……っ?!」


「『瘴気の津波』!!」


私の言葉に皆が反応する前に、私は『瘴気使い』として魔術を放った。

ここに居る十数名を包み込むように、『瘴気』が充満する。

『瘴気使い』のスキルを授かったと分かった後の方が、スムーズに魔術として扱えるようになった気がする。


「ぐ、ぐあぁ、ぁ……。」

「くっ、苦し、い……。」 


お〜、お〜、呻いとる呻いとる。

「な、何で、こんな、……こと。」

コウジが苦しみながら問うてくる。

「そんなの、御礼だよ。御礼参り。」

「……。」

コウジは悔しそうな目で見てきたが、やがて俯いてしまった。

「なっ?!なんですか、これはっ?!」

あ、サバランさん。

ユタラプトルちゃんの世話でもしてたのかな?

遅れて入って来て、惨状を目の当たりにして、固まってしまった。

「あ、サバランさん。近付かない方が良いと思いますよ?死にたくないなら。」

「なっ?!」

私の存在に気付いて、こちらも固まってしまった。

「……どうして、私たち、まで……?」

キョウコだ。

こちらも、のたうち回りながら尋ねてきた。

「どうして?って……、貴女達も助けようとしてくなかったじゃない?連帯責任よ。」

「そんな……。」

「そんな」って、それはこっちのセリフでしょ。

あんな所に落とされて、死にそうな目に遭わされたんだから。

……ん?

あ、一人消えた!

一瞬だけ体がポワッと光ったと思ったら、そのまま霧散する様に消えてしまった。

へぇ、本当に今の私達の体って、魔力で造られてたんだ!

意外なところで確認する事ができた。


「もう、お止めなさいっ!皆さん死んでしまいますよっ!」

サバランさんが止めに入ってきた。

「サバランさん。残念ながら、皆、もう手遅れだと思いますよ?……あの時、貴方が大人な対応をして、皆を止めてくれていたら、こんな事態にはならなかったかも知れませんけどね?」

「ぐっ、そ、それは……。」

今、この場には、私をここまで連れて来てくれた軍の方とか、元々ここに努めていた人なんかも居る。

そんな人達の前で、自分の失態を晒されるのは、サバランさんにとって痛手だろう。

けどまぁ、皆の様に死ぬ訳じゃなし、全然マシでしょ。


「……たぁっ!」

おっ?!


ヒュッ!!


私は、突き出された拳を躱した。

いつの間にか近付かれていた一人に、不意打ちをかまされそうになった。

危っぶな!

けど、流石に私も無策で突っ立ってはいない。

『瘴気』の壁を纏っていた。

殴ってきたのは確か『拳闘士』のスキルを持った男子。

コウジと一緒に私を襲おうとした一人だ。

残念ながら、『瘴気』の壁は彼の拳を完全に止める事は出来なかったが、私が気付くまでの僅かな時間は稼いでくれた。

そうなれば、おそらく『混沌の導き手』で身体能力の向上した私なら、難なく躱せる。

おまけに、『瘴気』の壁に触れ、『瘴気』を吸った彼も、皆の様に『瘴気』に蝕まれた事だろう。

けど、放っておくつもりは無い。

私は渾身の蹴りを彼に見舞った。


「──がっ!!」

ドガンッ!!


彼の体が建物の壁まで吹き飛び、壁を突き破ってしまった。

あらら、建物まで壊す気は無かったんだけどな……。

……あ、消えた!

『拳闘士』なんて、そうとう身体能力も向上しそうなスキルなのに、それを一撃で倒せるなんて。

『混沌の導き手』による身体能力向上は想像以上のようだ。


よし!こんなもんか。

「じゃあ、用も済んだので、次は前線まで案内してもらえますか?」

「ぜ、前線?!何故そんな所に行かれるのですか?」

私をここまで案内してくれたオジサンが、慌てて聞いてきた。

「あれ?魔王の住んでる所まで行くのに、そのルートが一番近道だと思ったんですけど、違いますか?」

「えっ?……いや、しかし。」

「どうせなら、正規ルートで魔王まで倒して、異世界を満喫してから帰ろうと思うので。」

「……。」

う〜ん、軍のオジサン達を啞然とさせてしまった。

サバランさん以外の軍の方々に対しては、特に思う事無いので、何もする気無いんだけどな。


私は、まだ倒れて息のある皆をそのままに、魔族と人が戦争をしている前線へ向かったのだった。

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