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24.久遠の世界は



 コンコンコン、ガチャリ。


 三回ノックをしてから、ドアを開けた。

 中は意外にも、電気が点いていて明るい。


 部屋の中にはデスクがあって、そこにはこちらに背中を向けて座っている人影がいた。彼は、顔を向けないまま言う。


「……誰?」


 それは、懐かしいような、逆に初めて聞くような――それでもずっと俺が探し求めていた声。


「岸先生? 何回来ても同じだからね」


 彼は、呆れたような口調で続けた。暫く俺が返事を出来ないでいると、不審に思ったのか彼は回転する椅子と共に、くるり、と。


 

 振り向いて――――――。



 彼の顔を見た瞬間、「ああ」と思った。見覚えのある四角い眼鏡、冷たい光の宿っている切れ長の目。


 間違いなく、俺の相棒の斑鳩久遠だった。


 俺と彼の目が合う。


 俺が言葉を発するより先に、向こうの目が思いっきり見開かれた。本当は、この現実世界で会ったことなんてないのに。


 俺たちは、互いのことを知っている。


「え……ら、来翔なのか……?」 


 久遠は驚いた顔のまま、ヨロヨロと立ち上がり、こちらへ歩いてくる。良かった、俺の名前を記憶していた。


「うん。神尾来翔だよ」


「なん、で……あれ、僕……」


 久遠が近づいてくる。その懐かしい姿を見て、俺は思わず笑みを浮かべる。目の前に、ほんの短い異世界での冒険を、共にした相棒が居る。今は、そのことが心の底から嬉しい。


 俺は、心の奥深くの緊張を隠すように、笑顔で手を伸ばす。そして、ずっと用意していた言葉を、かけようと口を開いた。


 どうか、届いてくれと願いながら。


「久遠、

 



 *



 

 僕は、何回目かわからないエレベーターからの景色を眺めていた。現実の世界と、謎の精神世界を繋ぐ超高層ビル【暁の層楼】――ここが、異世界からの出口だと知ったのは、いつだったか。


 

 僕は学校が嫌いだった。選んだ高校がどう、とかではなく、普通にああやって人が集まっているっていうのが苦手だった。確かに、人と触れ合ったり喋ったりするのが好きな人にとっては楽しい場所かもしれない。だって、最初は僕もその立場だったから。


 それでも、集団というのは怖いものだ。


 僕が学校を嫌いになったのは、中学一年生のとき、最初の定期テストが行われてからだった。僕は、もともと勉強が好きだったし、幸せなことに努力すればするほど学力を伸ばしていける人間だったから――最初のテストで、どの教科においてもぶっちぎりでトップクラスの点数をたたき出すことが出来たのだった。


 それは嬉しかったし、モチベにも繋がった。だけれど、何故か僕の点数結果が流出してからは、一気に色んなものが崩れ始めたんだ。


 ひとつは、人間関係。それまで一緒にふざけ合って、喋っていた男子友達たちが急に距離を置くようになってしまったのが一番悲しかった。僕だって今まで通りに付き合いたかった――それでも、彼らに「俺等とは違う」という認識をされてしまってからは、もう元には戻れなかった。


 もうひとつ嫌だったことは、僕に「秀才レッテル」が貼られたこと。僕が不意に口に出したこと全てに対して、「天才の考えていることは違う」だとか「さすが斑鳩、学年トップ」だとか、別に何も関係ない発言なのに、勉強のことが持ち出された。たかが、学校の、しかも中一の定期テストなのに……そこの僕の結果が「良すぎた」せいで、境界線を引かれた。


 僕は一人ぼっちになった。


  それからの中学生活はあまり記憶がない。義務教育だから、流石に行かなきゃまずいだろうとは思って、不登校にはなれなかった。親にも、「出来すぎて辛いです」なんて言えなかった。ナルシストみたいだし、調子に乗っていると思われても嫌だし、何より心配をかけたくなかったから。


 それで、ずっと我慢してきて。


 でも高校で、もうだめだった。

 もしかしたらみんなは無自覚なのかもしれないけれど、集団の中にいると気づかないことがある。心のどこかで自分よりできる人や、成功話を羨んでいて、心のどこかで、劣っている人を蔑んでしまっていて、哀れんでしまっているということ。



 境界線を引かれた側は、気づいてしまうのだ。自分にどういうレッテルが貼られていて、どんな目で見られているのか。


 やっぱり集団が苦手だ。

 そう再認識した瞬間、僕は途端に学校へ行く気力を無くした。そして部屋に引きこもった。一人は楽だった。何も気にすることはないし、煩わしいこともなかった。


 もう、このままでいいと――そう思っていたのに。


 いつからか、僕の奥底で、また社会に戻らないかという声が響き始めたんだ。

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