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 昴の手を引いて、私は一心不乱に走る。全身が疲れで悲鳴を上げていた。でも、立ち止まったらダメだと自分に言い聞かせ、住宅街の道を抜ける。大きな通りに出て信号を渡ると、もう諦めたのか、母親は追いかけてきていなかった。

「はあ、はあ……ちょっと、休憩しよっ」

 私はちょうど前方に広がっている広めの公園を指差して言った。

 昴は「ああ」と肩で息をしながら答えた。お互いに体力の限界を感じていて、公園のベンチのところまでたどり着くと、雪崩れ込むようにしてへたり込んだ。

 次第に傾いていく月を見上げながら、私はぼんやりと「今何時なんだろう」と考える。時計を見る元気もない。普段あまり意識したこともない星空を仰いで、かつて昴が言っていた言葉を思い出した。

 あの、星が降るようなメロディーが好きで。

「月の光……」

 気がつけば自分の口から唐突な言葉が漏れ出ていた。

「え?」

 隣で、昴が首を傾げるのが分かる。

「『月の光』が聞こえてきそうだね」

 私の言葉に何かを察したのか、昴は同じように空を見上げた。西の空に傾く月と、普段は目にすることのない配置をした星々。地球がゆっくりと回っていることを実感させられた。

「そうだね」

 私たちの間に、さっきまで流れていた緊迫した空気はどこかへ飛んでいっていた。昴は、椅子の上についた私の手のひらの上に、自分の手を重ねた。

「光莉、嘘をついて、ごめん」

 彼の口から吐き出される言葉は、私の心の真ん中にゆっくりと浸透して、胸をつままれるような切なさを覚えた。

「何があったのか、教えてくれる?」

 昴が、爽やかな笑顔の下に抱えていた胸の重し。

 身体から覗く痣と、鬼のような顔をした母親と思しき人物の姿。

 目にした事実だけを繋ぎ合わせれば、答えはすぐ目の前にある気がした。

「僕はあの日、嘘をついたんだ。“おばあちゃんと二人暮らしをしてる”っていう嘘。本当は母親と二人暮らしなんだ。でも母親はあんな感じでさ……。父親が他の女の人と浮気をして別れて、母さんは借金まで押し付けられてね。そりゃあ、心も荒んでいくって。だから僕をぶったり言葉責めにしたりすることが、母さんの心の捌け口だった」

 僕は、きみに会えてラッキーだ。

 あの日、私が初めて昴に出会った日に口にしてくれた言葉が、脳裏にフラッシュバックする。おばあちゃんが認知症だと言ったのは、嘘だった。

「家にいづらい、と言ったのは本当なんだ。いくら母さんの気持ちが分かるとはいえ、僕だって進んでサンドバックになりたかったわけじゃない。叶うなら、母さんと仲良く過ごしたいと思ってた。……でも、父さんという最愛のひとから裏切られた母さんは、僕のことなんか“モノ”としか見ていない。僕は、夜の時間にこっそりと家を抜け出して外で過ごすのが日課になっていた。母さんは夜の仕事をしていて、夜は家にいないんだ。だけど、たまたま母さんが仕事から早退した日に、僕が夜に外をふらついていることがばれてしまって。最近、光莉との待ち合わせに遅れていたのも、母さんが僕を家に閉じ込めようとしていたからなんだ。さっきも、玄関に鉄格子をはめているところだった。僕が夜中にこっそり家を抜け出しているのを知って、母さんは怒ったんだ」

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