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エピローグ

 精霊教会本部にある礼拝施設。

 王都貴族街にあるそこも、他の領地や地域にあるそれらと基本的なつくりは共通のもの。

 正面奥にある説法台から、長椅子に並び座る者達に話しかけるような空間が用意されていた。


 聖女の叙任式もそんな礼拝施設で執り行われた。


 この式典もまた日常の延長であり、何も特別なものではないことを示すため。

 叙任を行う精霊教会のトップである総主と、新たな八名の聖女、そして数人の関係者の中で質素にそれは行われた。


 一聖から順に任命状を手渡していく総主。


 いつも変わらぬ活躍の一聖ソフィアに「またよろしくね」と。

 まるで冒険者のように周辺の村々や辺境の地で大活躍の二聖イライザに「いつもありがとうね」と。

 式典はなごやかな雰囲気で進んでいく。


 三聖に総主が「ねぇ? 総主に興味ない?」なんて言ったときには、そこにいる多くの者達の肝が冷えたが──ただでさえ公爵家当主になったはずの彼女がまだ聖女を続投することも異常なのに、この上さらに総主の座まで明け渡してどうする!? と──だが、いつもどおり目も口も閉じたままの三聖が、そのまま何事も無かったかのようにスルーした様子に、関係者一堂、胸をホッとなでおろしたりした。



 異常事態といえば、今回は特にそうだった。


 本来は十名いるはずの聖女なのに、「十聖は該当者なし」のまま。

 その上、四聖の任命は取り消し。

 いつもより二人も減ってしまっていた。



 空席となった四聖の座に「繰り上げ」の話は当然あった。


 だが、五聖以降の貴族令嬢達はその打診を辞退した。

 四聖になるはずだった令嬢よりも家格が下である者達はもちろんのこと、同格であっても、下手にこれを引き受けてしまえば派閥争いの火種になりかねない。


 四聖取り消しの理由が、貴族間にはびこる深い闇に関わることで、しかも未解決の事件とあっては、迂闊(うかつ)にそこに手を出すわけにはいかなかった。


 そんな争いに巻き込まれかけてしまった不運な貴族令嬢達、五聖以降の聖女達に総主が「なんか、ごめんね?」「心配しなくても大丈夫だよ?」と声をかけるも、かけられた側も返事に困って「あ、いえ」「えっと、その」と言葉につまってしまうのだった。



 だが、問題はこれからだった。


 今回、貴族ではない令嬢が一名から二名へ増えてしまった。

 いつもの二聖イライザに加えて、もう一人は………



「九聖ミストストーム、前へ」


「「!」」


 九聖ミスティ。しかも彼女は聖女初の獣人族。


 (うわさ)には聞いていた。

 叙任式の前からなにやら色々と暗躍していたらしい。

 四聖失脚の元凶も彼女だという。


 背中に突き刺さる多くの視線に、ミスティの獣耳がゾワッと逆立つ。


 進行役の神官から説明が入った。


「…九聖に関しては、補足説明があります」


 皆に誤解の無いように、と神官があらかじめ渡されていた別紙資料を見ながら説明に入る。


 それはミスティの功績だった。


 東の異形の森の調査。

 今年中に確保予定だった希少薬草の大半の採取調達。

 王都にはびこる違法奴隷に関する問題解決への助力。

 先日発生した貧民街における火災の阻止と、その復興への多大なる貢献。


 森の調査と薬草採取は三聖の助力もあったが、それ以外は九聖によるほぼ単独の功績である、と。

 …貧民街の復興は「ヒートウェイ家当主」からの口添えがちょっとだけあったが、三聖は、何もやっていない建前なので神官も言及はしなかった。



 そんな説明に聖女達は思わず目を()いた。


 三聖が手伝ったとしても、それでも功績の数と規模が、おかしい。

 そもそもまだ叙任前だ。

 合格発表から今日までの短い期間に、一体なにがあったというのだ……


 そんな聖女達の反応を見て、精霊教会の職員達がそれぞれ気まずそうに視線をさまよわせた。

 そもそもまだ叙任式前の九聖ミスティに、こんな恐ろしい無茶振りをしたのは職員だ。


 彼らが直接命じたわけではないが、それでも、それらを見落とした不備や責任については職員一人ひとりが自覚している。



 落ち着きのない空気の中、進行役が粛々(しゅくしゅく)と紙の内容を読み上げるが……途中で、その声が止まる。


「以上の功績をもっ…………──」


「「……?」」


 言いかけた言葉を(のど)につまらせ、ギギッと音が聞こえてきそうな様子でその首を、総主のほうへと向ける進行役。



 二人の視線のみの無言の会話。


 何も聞いてませんが?

 言わなかったけど?



 …そのまま長い沈黙のあと……何かを悩み、天を仰いで……ようやく視線を前へと戻した進行役。

 やはり手渡された紙の内容通りに、再び進行する。



「──…以上の功績をもって、九聖ミストストームを、四聖に、昇格する……!」


「「!?」」



 すかさず続く、総主のツッコミ。


「だって、それだけの仕事しちゃったんだもの」


「「……!!」」



 たしかに、そうだ。


 同じことをやれば四聖になれると言われたところで、五聖以下は「無理です」と即答するしかない。

 なんなら上位三席だって遠慮なく上の席を譲りかねないくらいの内容で……そういう意味では「三聖が助力した」という事実があるのは、色んな人達にとって幸運だった。



 皆が驚く中で、驚く以前にまだ状況について行けていない、「四聖昇格への打診のなかった平民」である元九聖ミスティが、わけも分からず総主の前に立つのだが……


「…あっ」


 目の前の、見覚えのある顔の老人。


 それはあの時、お仕事初日に、ミスティにその内容を丁寧に教えてくれた老職員で……


「ね? 君に任せて正解だったでしょ?」


 その元凶が、ちょっとしたイタズラの成功に目を細めながら、性懲(しょうこ)りもなくまたミスティに無茶振りをした。


「でも、君はもう九聖として名前が売れちゃってるでしょ?

 だから四聖は、『無理のない程度に兼任』でいいから、ね?」




 ◆ ◆ ◆



 そして叙任式は終わり、その場で解散となったその時。

 列の左端と右端、それぞれから走り出す二人の姿。


「ミスティちゃん!」

「姫様!」


 一聖と九聖。


 そこにいた者達のほぼ全員が、同じ思いだった。

 おまえか! おまえの身内なのか!? しかも姫様、って!!



「姫様! 私、これで姫様のお手伝いができます!」



 礼拝堂の明かり取りの窓からの光に照らされて、獣耳の聖女の抱きしめて自分のことのようにうれしそうに喜ぶ一聖の姿に、驚きながらもそれを祝福する二聖と、いつもどおり目を閉じたまま、わずかに口元をゆるめる三聖。



 不動の上位三席に、新たに増えてしまった四席目。



 笑顔で抱擁し合うソフィアとミスティ二人の姿に、微笑(ほほえ)ましいやら、戦慄(せんりつ)するやら、とても複雑な心境の残りの聖女と関係者達なのであった。



「ハンゾー君! 私、聖女になったよ!」


「…びっくりだにゃ。

 やっぱりミスティはすごいにゃ」



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