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V. 2

ーーー…


君歌きみか


 名前を呼ばれ、振り返るとこずえがいた。人の波から飛び出し、私に抱きついてきた。梢の細長くて白い腕が私の背中に巻きついている。

 通行の邪魔となった私たちを横目で見ながら学生たちは学内へと入っていく。門で警備をしている人だけがにこやかな表情を送ってくれた。


「おはよ〜君歌」

「おはよ。朝から愛情表現ハンパねーな」

「うん。あたし、君歌が大好きだもん」

「知ってる。っていうか、人目もあるからそろそろ移動しようか」

「はぁい」


 梢とは、ここ、真成しんせい大学で知り合い、仲良くなった。当初から私のことを「格好いい!」と褒めてくれ、慕ってくれている。素直で人懐っこいところは魅力であるが、そういうところを妬む人も多い。


 「かわいこぶってる」「媚び売ってる」そんな陳腐な言葉で梢を傷つける。何の権利があって私の大切な友だちを泣かせているのだろう。腹が立つので見かけた時には懲らしめている。

 やり返している時点で私はやつらと同類なのだけど、梢は嬉しそうに私を「ヒーロー」だと言う。そして、「彼女にしてくれ」と。


 もちろん、冗談だ。梢の恋愛対象は男性なのだから。


「ちーっす!」


 弥雷あいつの友だちの呉家(くれや)くんに片思い中だ。


「おい、オススメした動画見たか?」


 私の肩に腕を回して自分へ寄せる男、南野なんの弥雷みらいは気の許せる友だちでよく絡んでいる。男女の友情を信じない人からは怪しい目で見られるけど、私は弥雷こいつとなら男女の友情は成立すると思う。なぜなら。


「見てない。面白くなさそうだったから」

「見てみろって! ぜえったいハマるって」

「私の感情をお前が決めつけんな」

「お前のことはよく分かっている! 今日の下着の色も当てられる」

「言ってみろよ」

「黒!」

「……」

「素材はコッ「もういいやめろ」」

「ちなみに俺は「知りたくないから言うな」」


 私たちに流れる空気にピンク色が交ざることはないからだ。恋に発展するような恥じらいや秘密やトキメキがない。例えるなら、姉弟のような関係かもしれない。

 一方、梢と呉家くんの間には緊張感が見え、お互いを男女として意識している。私たちよりは恋へ発展する可能性は高いようだ。


「…し、士乃助しのすけくん。おはよ」

「……はよ」

「今日も暑いね」

「……ああ」

「扇いであげようか?」

「…自分で自分を扇げば?」

「あ…うん」

「…必要なら、俺が扇ぐけど」

「いいのいいの! そうじゃないの…」

「…なにが?」

「え、いや、その…」


 潤む瞳、赤らむ頬、もじもじする体。梢の反応は誰が見ても明らかに恋をしていることを示している。呉家くんは気まずそうに視線を逸らし頭を掻いている。側から見ても、美男美女でお似合いだった。

 梢はチョコブラウンのゆるい巻き髪にレースをふんだんに使ったワンピースにハイヒールでお姫様みたいで、呉家くんは知的クール系長身イケメンだ。


「照れんなって。何度も夜を共にした仲だろ?」

「カラオケオールな」

「同じベッドに入って体も重ねたろ?」

「疲れ切ってベッドにダイブしただけだろ。紛らわしい言い方するな」

「俺の大事なところも触ったくせに」

「妄想までし出したら取り返しつかねぇな」


 大きなため息を吐くと、弥雷が私の顎を掴みグッと顔を近づけてくる。しかめっ面を深くすると、弥雷が歯並びのいい歯を剥き出しにして笑った。


「お前、動画見てんじゃん! 素直じゃねーな?」

「見てねーから」

「その顔は動画のネタでやってたやつだ」

「チッ」


 見た目によらず人を観察している弥雷に苛立ったため、鼻を摘んでやった。痛みに歪んだ顔をさせたことで気持ちは晴れたため、気分良く講義へ向かう。

 弥雷が鞄をぶん回してきたのをかわし、逃げる背中を見送らずに足を進めた。


「相変わらず、仲良いね」


 梢がにやにやしながら駆け寄ってくる。呉家くんとの話は終わったらしい。好きな人と話せた梢は元気をチャージしてきたようだ。今日はくよくよな梢は見ずに済みそう。


「その言葉、そっくり返しますわ」

「え? やだ、あたしたちはそんなんじゃないよっ」


 バシッと叩かれるが威力はない。そして、否定しているくせに嬉しそう。朝から公の場で人目をはばらずにイチャイチャするバカップルを見ている気分になった。


「ねーねー! 南野くんは君歌みたいなベリーショートカットのクールビューティ系を彼女にしないのかな?」

「やつは私より梢の方がタイプだろうよ」

「でもでも、仲良いじゃん?」

「あいつは彼女に容姿と欲を満たせることを求めているから、仲がいいことは重要ではないの」

「ひぇー…それだったら、彼女じゃなくて遊び相手探した方がいいんじゃないかな?」

「私も何度もそう言った」

「…それで?」

「あいつは今も彼女がいる。そういうことだ」

「…どういうこと?」

「詳しく聞きたいなら梢が聞きなよ。私は興味ないからさ」


 恋をするだとか欲を吐き出すだとか、自分らの好きにすればいいと思う。だけど、私に同じことを求めないで欲しい。全ての人が恋をするだとか男で感じたいだとか思うと思わないで欲しい。

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