弔辞
君は知らないだろうけど、私には好きな人が居た。多分向こうも悪くは思ってなかったと思う。ただ、なんていうのかな、親同士の関係やらなんやらがあって、付き合うとかは出来なくてね。そのうちに疎遠になってしまったんだよ。
そんなこんなしてたときに出会ったのが君だよ。色々やったよな、文化祭の後夜祭で二人して飲みつぶれて下宿の駐車場まではたどり着いたけど、そのまま駐車場で寝てしまったっけ。あれはひどかった。起きたら警察に二人とも保護されたからな。
卒業後も連絡を取り合って、一緒に遊んだよね。年に一回の高級旅館に行くのは楽しかった。
私の妻との出会いも君がセッティングしてくれたんだよね。勿論覚えているとも。所で、なんで最初に好きな人が居たという話をしたのか、気になってるんじゃないかな。実はね、私の妻がその人なんだよ。初対面の時に固まってた私に君は不思議な顔をしていたよね。「きれいな人でビックリした」と君には答えたけど、実はまさかこんなところで出会えるとは思ってなかったからなんだ。気恥ずかしくてそのことを言えないまま、この時を迎えてしまった。いつかは君に言おうと思ってたんだよ。本当さ。
まさかねぇ…。君が交通事故に遭うとは…。これから話せないと考えるだけで悲しいよ。
「あぁ!こんなんじゃない!」
方眼用紙をぐちゃぐちゃに丸め、ゴミ箱に放り投げる。きれいな放物線を描いたが、失速してゴミ箱の手前に落ちた。
どうしてこんなことになったのだろう。もう君には会うこともできなくなってしまった。いつか、黙ってたことを謝ろうと思ってたのに。
夢でなら、許されますか
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お題
「君は知らないだろうけど」で始まって、「夢でなら許されますか」で終わる物語を書いて欲しいです。
作成:仄