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創作ジャンル

小説家になろう 人気ほしいほしい罪

作者: X

 俺は逮捕された。罪名は人気ほしいほしい罪であった。

 

 いつものように日間ランキングを確認するために朝の五時半まで起きて、自作小説のランキングを確認して寝た。

 気分良く寝れそうだった。なぜなら自作小説のランキングが順調に上がっていたからだ。

 一位を取るのは難しい、はっきり言って無理だろう。だがなんとか二十位くらいには食い込めるはずだ。朝の日差しが安物のカーテンを貫通し俺を照らすが、そんなことは慣れっこだった。


 呼び鈴が鳴る。俺が住む安アパートの呼び鈴は物悲しくも刺々しい音を発する。貧乏人には相応しい音色であった。

 時間を確認するとまだ朝の七時ちょっと過ぎ。こんな時間に訪ねてるくるやつはアホかヤバいやつしかありえないので俺は居留守を使うことにする。早く諦めて帰ってくれ。

 もう一度呼び鈴が鳴った。さらに続けてもう一度。しつこい。

 家賃も光熱費も水道も今月は滞納していない。してないはずだ、いやちょっとくらいはしているかもしれない。だがライフライン系は数ヶ月待ってくれるものだし、それにしたってこの時間に訪ねてくることはないだろう。俺は薄い掛布団を頭まで被り完全防備の態勢を取った。


 「警察です。開けて下さーい」

 

 どうやら後者のヤバいやつだったらしい。しかも最悪なことに国家のヤバいやつだ。

 経験上居留守を使っても仕方ない相手だと分かっているので俺はパンイチの姿からジャージの姿へ華麗に変身してドアを開ける。

 開けるとそこには四人の幼女が立っていた。


 「どうも。なんで私達が来たかわかるよね?」

 分からなかったし、理解できなかった。わからないということは理解できないということなのでこれは重複の表現になるのだろうか? 俺は分からなかった。


 「わかりません」

 正直に答えると四人のうち俺の目の前に立っている幼女(銀髪ツインテール美幼女)が俺の前に紙を突き出し「これ、令状ね」と言った。

「令嬢?」そう聞こえたのは俺がずっぽしなろうの沼にハマっている証拠に他ならなかった。


 「人気ほしいほしい罪により、逮捕。時刻は?」

 「七時十二分です」

 「はい、手首出して」


 俺は逮捕された。罪名は人気ほしいほしい罪であった。


 刑事ドラマで見るような安物のデスクに安物のライト、そして目の前には銀髪ツインテール幼女が難しい顔をして書類を捲っている。カツ丼はなかった。

 「熊五郎、ね」

 面と向かってそう言われるのは恥ずかしい。人に呼ばれることを想定していない名前なのだ。

 「はい」と俺は神妙に返事をする。


 「君、最初は純文学カテゴリーで書いてるね、数日のうちに短編ばっかりだけど結構書き上げてる」

 創作活動というのは恥ずかしい、ネットで顔も名前も隠しているからできるのであって、面と向かって小説書いてるんだね、と言われてもなかなか素直に「はい、書いてます。読んでください。出来ればブクマとポイントもお願いします。いいねはぶっちゃけ仕様がわからないんで好きにしてください」とは言えない。言えたらもっとマシな人生を送っている。


 「えっあっはい、太宰治とか芥川龍之介が好きなので」事実であった。特に太宰治のパンドラの匣と正義と微笑はバイブルですらあった。青空文庫は貧乏人の強い味方だ。頼むから著作権失効期限を作者の死後五十年に戻してくれ。


 「ふーん、でも途中から異世界恋愛ばっかり書くようになったようだね」

 ぎくりとした。正直触れてほしくない。えぇまぁとかゴニョゴニョ言って俺は誤魔化した。

 「異世界恋愛カテゴリーの好きな作品言ってみて」

 誤魔化せなかった。気まずい沈黙が流れる。


 「どうしたの? 純文学に負けず劣らずいや勝るほどに書いてるよね? すごい情熱だ。純文学では太宰治と芥川龍之介が好きなら異世界恋愛カテゴリーでは誰の、なんの、作品が好きなんだ! 言え!」

 ついにデスクにその小さな拳を叩きつけ、そのツインテールを揺らして銀髪幼女刑事は凄む。

 

 「……りません」

 「なんだって? 聞こえないな! ?」

 「知りません!」

 

 俺は異世界恋愛カテゴリーの作品なんて一作も知らなかった。青空文庫から小説家になろうに移ってきたのは二週間ほど前。それまでは異世界恋愛カテゴリーという名称すら知らなかった。

 最初は気にも止めてなかった。まず自分の体験を元にした小説を書いてPVが付けば喜んだ。次にブクマを付けてくれる人が現れ、ポイントを入れてくれる人も現れた。有り難かった。涙が出そうだった。

 純文学カテゴリーの日間ランキングに作品名と熊五郎と出て、なんだか世に出た気分にすらなった。芥川賞受賞です! おめでとうございます! ありがとうございます!


 そして今まで気にも止めてなかった異世界恋愛カテゴリーのランキングがサイトのトップにあったので見てみた。腰が抜けた。芥川賞受賞したと思っていた俺の自信が粉々になった。

 何だこの数字は? 文字通り桁が違った。しかも二つか三つは違った。えっこの、なに? えっ?

 あんまり言いたくないが純文学カテゴリーの日間ランキング一位が異世界恋愛カテゴリーの日間ランキング百位に数字の上では負けていた。

 この数字というものは厄介で盲信すれば破滅して、そして軽視しても破滅する。十二年付き合ったアラフォー女くらい取り扱いが難しい存在であった。


 そして俺は異世界恋愛に魂を売った。まずは研究することにした。知らなければ書けない。正直に言ってその作業は楽であった。なぜならすべてタイトルとあらすじに書いてある。もはやタイトルとあらすじというか、少し前に一斉摘発されたYou Tubeのショートムービーのような趣であった。

 なるほど、と思った。まず主人公は女、そして貴族であること。この貴族というのも日本のものではなく欧州の貴族。つまり大名ではなくデュークであった。

 

 要は貴族の女が苦労する話、というわけかと理解した。そこで頭の中で閃きが起こった。これ山本周五郎と親和性高くねぇか? 頭の中でいくつかの短編を異世界恋愛テイストにしてぶっこむ。いけそうであった。


 さっそく書いてみた。当然難しかった。

 次に背景を消してみた。つまりほぼ密室劇にした。どこどこにいってなになにするぞ! ということは避け、出来得る限り人物の動きだけを場所を動かさずに追うことにした。文字数は稼げないがそもそも長編を書く気もなく多くても二万文字くらいで収めたかった俺にはちょうど良かった。

 

 これならいける山本周五郎in異世界恋愛カテゴリー。

 何作か書いて。その一作が幸運にも多くの人に読まれた。だがここから俺は苦しむ。

 書けなくなったのだ。あんなに書いていたのに。なぜなら数字が気になって気になって仕方ないのだ。ちょっと書いたらマイページ総合評価、ちょっと書いたらマイページ総合評価。

 俺はついに数字の魔物に取り憑かれた。執筆が手につかなくなった。だいたい一時間二千文字書いていたのがぱったり捗らなくなった。

 

 「そして俺はここに居ます。俺は間違っていたんですかね」

 「そりゃダメでしょバカなの」

 「でもなろうだって異世界転生悪役令嬢ざまぁ婚約破棄テンプレートの使いまわしじゃないですか」

 「そりゃ舞台設定だろ」

 「走れメロスや蜘蛛の糸、銀河鉄道だって散々使われてるじゃないか!」

 「誰が短編集の一編のオマージュだとわかるんだ。言ってみろよ。それはなパクりって言うんだよ」

 「もう一度聞きます。俺は間違ってたんですかね?」

 「裁判所の召喚を待て、逃げるなよ」


 俺は追い払われるように署からつまみ出された。逃亡のおそれなしとして自宅待機が命じられたのだ。

 くそ! 俺はいつしか書くことより数字を得ることに快感を覚える人間になってしまったのだ! ちくしょう! スマートフォンを開いてマイページ総合評価確認、増えてねぇじゃねぇか! 二時間は放置してたのに!

 

 後ろから救急車のサイレンの音が聞こえた。

 そう思っていると俺の目の前で救急車が止まり、四人の救急隊員幼女が現れた。


 「緊急搬送します! ! ! 病名は! ! !」


 「人気ほしいほしい病です! ! !」


 俺は緊急搬送そして緊急入院した。病名は人気ほしいほしい病であった。

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