伝説の勇者の舞台裏(2)
「―――世界の危機を救った青年の勇気を旗印に、皆の心を一つにして―――」
そう言い終えると、その男性は音声のスイッチを切った。
ヘッドフォンマイクを外し、大きく溜め息を吐く。
「・・・とりあえずこれで一段落かな。見てる方が胃が痛かったよ・・・」
青年と呼ぶには少し年がいっている。30歳前後といったところだろうか。
金髪と白い肌を真っ白なローブで包み、椅子に深く腰掛けている。
「っと、連絡入れないと」
充電していた携帯を取り出、電話を掛ける。
『はい、こちら株式会社創伝です』
「いつもお世話になっております。私、グクマッツと申します。え~と、FWD担当の神野さんは
お見えですか?」
『はい、神野ですね。少々お待ちください』
―――数秒の間。
『お電話代わりました、神野です。』
「あ、お世話になってます、グクマッツです。すみません、先ほど終わりましたのでご報告をと」
『ああ、グクマッツさん。こちらこそお世話になっております。当初の予定より早かったですね。
今はどのような状態でしょうか?』
「主敵及び、めぼしい配下はほぼ壊滅状態です。比較的力の弱い者たちは僅かに残っていますが
彼らは脅威にはならないと思います。ありがとうございます」
『それは何よりです。え~と、今対象は?』
「とりあえず各国の祝福を受けていますね。今後どうするかは決めかねているようでしたが、
彼を中心に世界の修復をするよう声をかけておきました」
『あ、それは・・・。残るかどうかは彼次第ですので。すみません、一度確認します。
残りたいという意思が確認出来ましたら折り返し連絡いたしますね』
「早合点してしまいした。申し訳ありません」
『いえいえ、よくある事なのでお気になさらないでください。では、これから確認いたしますので』
「すみません、宜しくお願いいたします」
グクマッツは電話を切った。
神野が確認を行っている間に、彼の活動記録をまとめておかなければならない。
あちらでも記録はとっているはずだが、差異があってはならないからだ。
処理担当レベル :28
重大障害レベル :30
軽微障害合計レベル:6117
危険度 :C
破損割合 :38%
追加オプション
蘇生サービス :3回まで無料 使用回数0
特殊武器 :武器C150 鎧C150 兜C100 マントC100
その他サポート :なし
モニター前に置いてある、パソコンの計算ソフトに打ち込んでいく。
あまり項目は多くないので暗算でもいけるような気がするが、万一の間違いも無いよう
一つ一つ数字を確認しながら、慎重に入力していく。
確かこれで合っているはず・・・。あ、危険度の係数は10だったかな?
創伝から送られてきた案内メールを確認する。
危険度係数 A:50 B:30 C:15
と書かれており、グクマッツは慌てて修正した。危ないところだった。
(処理担当レベル+重大障害レベル)× 危険度係数15 = 870
上記数 + 軽微障害合計レベル6117 + 特殊武器合計500 = 7487
破損割合が38%が割引だから
7487 × (100-38)/100 = 4641.94 ≒ 4642(切り上げ)
4642・・・。これ、結構痛いな。まだ開発六割は残ってるけど・・・。
「武器も防具も現状維持での返却無理っぽいしなぁ。蘇生はサービスだし・・・」
袂に入れていた携帯が着信メロディーを奏でる。発信者名は株式会社創伝。
「もしもし」
『そちらグクマッツ様の携帯でしょうか。株式会社創伝の神野です』
「あ、神野さん。はい、グクマッツです」
『只今お電話、よろしいでしょうか?』
「はい。大丈夫です。確認取れましたか?」
『はい。彼はそちらの部署に残りたいとの事でした。残留費用が加算されますが、よろしいですか?』
「はい、残ること前提で費用計算しておりましたので。こちらの計算だと4642ポイントと
なりましたが・・・」
『え~と、それは破損割合38%での計算ですね。申し訳ないですが、下一桁まで計算いたしますので
破損割合は37.8%となります。それで計算すると4671.888、切り上げで
4672ポイントになります』
「・・・すみません、見落としていました。確かに下一桁と書いてありますね」
『はい。では合計4672ポイント、1ポイント当たり10000マナですので4672万マナの
お支払いとなります。口座からの引き落としとなりますので、後日ご確認ください』
「・・・はい、分かりました・・・」
『如何されました?何か不都合でも・・・』
「いえ、何でもありません。ちょっと想定より高く付いたなぁ、とか思ったので」
『すみません、こちらもご契約していただいたプランに基いた請求すので・・・、あっ!』
「どうしました?」
『あ、計算に見落としがありました。想定日数より短時間で解決した場合、短縮日数に応じて
割引されるんです』
「えっ?」
『すみません、近頃は日数ギリギリか超過がほとんどなのでうっかりしておりました』
「よかった・・・。それで、どれくらい引かれるんでしょう?」
『想定日数が90日に対して86日ですから、危険度Cですと一日につき30ポイント引かれます。
ですので120ポイント引いて、4552万マナになりますね』
「ありがとうございます!助かります!」
『こちらこそ、申し訳ありませんでした。では引き落としが完了いたしましたら明細を
お送りいたしますので』
「はい。了解いたしました」
『ではこれで失礼いたします。また何かございましたらご連絡ください』
「はい。また何かありましたらその時はよろしくお願いいたします」
『はい。それでは』
「ありがとうございました」
電話を切るグクマッツ。想定より少し安く済んだことに喜びを隠せない。
「ん?もし超過してたら同じポイントが加算されてたのか・・・?」
そう考えるとゾッとする。出世はおろか、食費も絞らないといけなくなる。
心の底から安堵し、胸を撫で下ろす。
これからも彼が迫害などされないよう、導いていかなければならないが
ひとまず自部署の危機は去った。
「よし、浮いた金で寿司でも食べよう!」
グクマッツは財布を持ち、部屋を出て行くのであった―――。