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厄介ごとならザッカーマン傭兵事務所へ  作者: サカトウ
Case1.『マンティコア』
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08.到達

 休憩所の床に横たわる兵士の死体を、監視カメラの死角へ引きずった後、シンユエとジンは階上を警戒しつつ、二階へ続く階段を上っていた。

 ジャマーは既に解除されており、すぐにでも、異常を察知した敵は行動を起こすだろう。

 敵の人数と位置を確認できているわけでないが、ジンの予想では、保全室のある二階と警備室のある四階にも敵が残っていると考えていた。


「データの回収を優先するか、侵入者を排除するか、敵はどっちを優先しますかね」

「さっきの兵士、統一された装備だったネ。多分、傭兵じゃなくてPMCか企業の私兵ヨ。だったら、絶対データの回収優先するネ」

「なら、保全室に向かいましょう」


 最後の一段を上り切り、二階へと足を踏み入れる。

 二階は階段の近くから経理部、その先にエレベーターの搭乗口、そして保全室がある。

 ここからは、経理部の事務室への出入口が、手前と奥に二つ見える。そこに、敵の姿は見当たらない。


 二人は手前の出入り口まで近づき、自在に曲がるチューブ状の偵察カメラを、ジンがドアの隙間から差し込む。

 彼の腕に装着されたデバイスに、カメラからの映像が映し出されるが、見たところ中にも敵は居ないようだ。


「どうします?ドローンを使えば、もっとしっかり索敵できますが」

「今は時間が惜しいネ、先に進むヨ」


 偵察カメラをドアの隙間から引き抜き、廊下の角まで進む。

 見取り図の通りなら、この先の廊下にはエレベーターの搭乗口と保全室とが、直線上にあるはずだ。

 ジンが経理部の事務室と同様に偵察を行う。


「敵影はありませんが、搭乗口から奥にかけて、何かが…」


 言い淀むジンのデバイスの画面を、隣からシンユエが覗き込み、口元に残忍な笑みを浮かべた。


「これ、血痕ヨ。エレベーターに仕掛けた罠に、引っ掛かってみたいネ」


 彼女がペットボトルに注ぎ込んだ二つの液体は混ざり合い、数十秒吸い込むと呼吸器を激しく損傷する毒ガスを発生させる。それはペットボトルを融解し、中身が放出される。その毒ガスは、仄かに柑橘系の香りのする無色透明な気体であり、知識がなければ有毒だと気付くことは困難だった。

 恐らく、エレベーターの内部を確認しに来た敵が餌食となり、保全室へと退却したに違いない。


「わざわざ袋のネズミになるなんて、とんだ間抜けネ」

「それとも、何か罠が仕掛けてあるのかもしれません、慎重に行きましょう」


 保全室の出入口まで、慎重に歩みを進めるが、罠のようなモノは確認できなかった。

 そしてシンユエは、壁に耳を当てて中の様子を探る。


カタカタ――


 キーボードの操作音が聞こえてくる。どうやら、ナノマシンの制御装置を操作しているようだ。

 ドアの下を覗き込むと、テープのような物で隙間は埋められていた。

 彼女の調合する薬品にとって、それは大した障壁ではない。しかし、毒ガスがテープを溶かし始めた瞬間に、敵は固形燃料弾の集中砲火によって壁やドアごと、二人を消し炭にするに違いない。


 どうしたものかと思案する彼女の肩を、ジンがトンと叩く。

 振り向いたシンユエの目に、彼の指さす天井の換気扇が映った。

 大柄なジンがシンユエを持ち上げれば、余裕で届く程の高さである。


 シンユエは頷くと、携帯型のガスマスクを二人分取り出し、一つをジンに手渡す。

 二人ともそれの装着が終わったことを確認して、ジンはシンユエの太腿に腕を回し、彼女を持ち上げる。

 天井の換気扇まで到達した彼女はその蓋を外して、毒ガスによって膨らみ始めているペットボトルを中に転がした。

 数十秒後、ジンは時を見計らい、敵の通信を妨害するためにジャマーを起動する。


 「グエホッ!ゴホッゴホッ!」


 激しく咳き込む音が聞こえたかと思うと、保全室の扉が蹴破られ、銃口が付き出される。

 待ち伏せていたジンは、素早くそれを掴み、銃を握る兵士ごと外に引っ張りだした。

 ふらつく兵士に前蹴りを繰り出し、横に吹っ飛ばす。そして、仰向けに倒れる兵士にトドメを刺すために、全体重を乗せたストンピングで首をへし折った。


 そうして保全室の入口を横切るジンを追うように、もう一人兵士が顔を出す。

 その背後に、音もなくシンユエが忍び寄ったかと思うと、兵士の首筋から鮮血が迸しった。


 どうやら、毒ガスから逃れられたのは二人のようで、保全室の中には四人の窒息死体が出来上がっていた。

 二人は部屋の最奥に進み、そこにあるナノマシンの制御盤から、兵士の死体を引きはがした。

 制御盤のパネルにはリブート中の文字が映し出されている。

 

「まだ、サーバーにアクセスできてないみたいネ。頼んだヨ、ジン君」

 

 ジンは床に転がったワークチェアを立てなおし、それに腰を落とすとパキパキと指を鳴らす。


「えぇ、任せてください」


 そう言うと、リブートの終わったナノマシンの制御を開始した。


お読みいただきありがとうございます。

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