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厄介ごとならザッカーマン傭兵事務所へ  作者: サカトウ
Case1.『マンティコア』
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05.周到

下層街の一角にある、うらぶれたBARにザッカーマンとジンは呼び出されていた。


「おー、久ぶりネ。ジン君、それに火傷女(スカルド)も」


声の主は、店内の奥まった場所にある個室から現れ、大袈裟に両手を広げて二人を歓迎する。


「シンユエさん、いい加減に隊長の事をそんな風に呼ぶのを――」


 そう言って気色ばむジンを、ザッカーマンは手を上げて制する。


 火傷女(スカルド)、それはザッカーマンの通り名であり蔑称でもあった。元PMCであり、プロテクト社で実動部隊の隊長も務め、数え切れない程の修羅場を乗り越えた彼女の戦闘技術は、一流のモノとなり傭兵の間ではちょっとした有名人になっていた。

 そんな彼女がいつの頃だったか、左半身に火傷を負い、左頬から左手にかけて火傷跡が残ると、その身体的特徴も相まって火傷女(スカルド)と呼ばれるようになっていった。


「構わん、ジン。それで、ニューエイジの見取り図を、手に入れたって事でいいのね?」

「手には入れたヨ。でも、渡す前にEZフロント社との契約書を見せるネ、そしたらコッチもアンタの依頼受けるヨ」

「ほら、コレでいいかしら?」


シンユエと呼ばれた女性は、契約書を受け取りジックリ読みこむと、満足げに頷き、二人を個室に通す。


「ワタシの取り分は報酬の三分の一。そういう契約ネ?」

「はい。それでいいんですよね、隊長」

「あぁ、見取り図の入手と、潜入のサポートをしてもらうからな。この報酬額で、不満が無いならコレにサインをして頂戴」

「逆に多いぐらいヨ、文句ないネ」


ササッと、ザッカーマン傭兵事務所との契約書に『ワン・シンユエ』とサインをした。


「コレが見取り図ネ、建設会社のニーちゃんから奪ったから正確ヨ」

「足は付いてないんですか?」

「ふふ、心配ないネ。ニーちゃんはワタシのお注射で、頭お花畑ヨ。今頃は、会社も辞めさせられて、どこかふらついてるネ」


 シンユエは、そう問いかけたジンに向かって妖艶な笑みを浮かべ、その時の事を思い出すように目を細める。


 『ワン・シンユエ』。彼女は暗殺や潜入を生業とする傭兵の一人であり、ダガーによる近接戦闘や、薬物の調合を得意とする。ザッカーマンが、まだプロテクト社で働いていたとき、仕事場で鉢合わせになることが多く。幾度も死闘を重ねた二人は、お互いの実力を認め合っていた。それにも関わらず、ザッカーマンをスカルドと呼ぶのは、お気に入りのジンをからかうのが好きだからだ。


「ココ、地下一階がサーバー室になってるネ。ワタシが手伝うから入口まで行くことは、そんなに難しく無いヨ。でも、そこから先がチョット問題ありネ」

「ん、一体どういうことだ」


 シンユエは、見取り図とは別に、配管図を取り出した。


「なんだ、コレ」

 

 ザッカーマンは配管図を凝視して、首を捻る。

 それも当然の反応だった。なぜか、大口径の配管が、何本も地下室へと繋がっているのである。


「ニーちゃんのパソコンから、根こそぎ転送したデータに入ってたのヨ。どう思うネ、ジン君」

「うーん、ちょっとソレ貸してくれます?」


 ジンは図面を受け取ると、地下室に繋がっている配管を慎重になぞっていく。それぞれが、何処に続くのかを、確認しているようだった。数分後、全容を把握したのか、図面をテーブルの中央に広げる。


「まず、地下室の床の四隅にある配管、これはポンプを挟んで熱交換器に繋がってます。さらに、熱交換器から先は、建物全体へと配管が巡らされ、地下二階へと続きます。そして、地下二階の配管はポンプを挟んでサーバー室の天井に繋がっています」

「ちょっと待つネ。地下二階なんて、見取り図には無かったヨ」

「えぇ、確かにそうです。しかし、配管図を見る限り、貯水槽のような部屋が、さらに深い位置に存在すると思われます。そして、そこに貯められた液体が、冷却のためにサーバー室に満たされている」


 サーバーを、丸ごと冷却液に沈めて、発熱を抑えるなんて聞いたことも無い。しかし、あのシンユエが、偽の情報を掴まされる。そんなことは、万に一つもあり得えない。つまり、提示された情報は、ジンの予測が事実であることを物語っていた。


「だとすると、サーバー室から冷却液を取り除く必要があるわね」

「隊長、そこが一番の問題なんです。この配置だと、サーバー室と貯水槽では、常に冷却液が循環していて、ソレを排出する機構が無いんです」

「ハァ?じゃあ、なんのために扉があるネ。大体、どうやってメンテナンスするヨ」


 シンユエの問いに、ジンは言葉が詰まってしまう。その代わりに、ザッカーマンが口を開く。


「ニューエイジが、遺物回収を行っていることを考えると、ナノマシンの可能性があるわね。それなら、建設直後のサーバー設置やナノマシンの頒布以外で、地下室への出入りは必要ない。冷却液の注入は、扉に注入口があれば問題ないはずよ」

「その、ナノマシンのメンテナンスはどうするネ」


 彼女が発した当然の疑問に、ジンはハッとする。


「あっ!だから、こんなところに小口径の配管が繋がっていたのか」


 そう言って、ジンは二階の一室に繋がる配管を指さす。見取り図のほうを見ると、その部屋は保全室と名付けられていた。


「なら、保全室からナノマシンを操作すれば、サーバーにアクセスできるネ?」

「そこは、やってみないと分かりません。ただ、アクセスできる可能性は高いです」


 ザッカーマンは、腕を組みしばし考え込んだ後に、口を開いた。


「依頼人のタイラーは、手段を問わずに、競りに介入する企業を探せと言ったわ。つまり、必ず、依頼を達成したいってことよ。少しでも、ヘマをする可能性があるのなら、プランは複数あったほうがいいわ」

「おー、偉そうに言うヨ。じゃあ、何かプランがあるノカ?スカルド」


 そう呼ばれた彼女は、不敵に笑みを浮かべていた。 


お読みいただきありがとうございます。

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