12.再誕
「アイ、本当に隊長は来ないのかい?」
「残念ながら」
「ジン、いい加減諦めるネ。アイツは一度決めた事は、絶対に曲げないヨ」
ジンとシンユエは、ロイド387cに発とうとする箱舟に搭乗していた。
ザッカーマンが軌道上を周回する量子コンピューターに、アイのバックアップを転送した結果、カミラの存在は消滅した。
一時、巫女を失ったプレベントは混乱に陥ったが、アイが彼女の代替をできる能力を保持していることを知ると、カミラの消失を悲しみながらもひとまずは平穏を取り戻した。そして、カミラの思惑通りに事は進んでいった。巨悪の討伐と英雄の消失によって。
「だったら、話をさせてくれないか。君なら、隊長と取り次ぐことだって出来るはずだ」
「一応試してみますが…期待はしないでくださいよ」
二人のために用意された個室のパネル上で、アイは古めかしい黒電話で通信を試みる。が、数分待っても一向に繋がらず、彼女は受話器を置いて首を振った。
「ダメですね。やはり、あの伝言通りに彼女は――」
ザッカーマンはカミラを消去したあの日、アイの中に伝言を残して姿を消した。
その内容は「私は復讐を終えた。もう、顔を合わせることは無い」という簡潔なモノだった。カミラの真意や大戦の真相、そしてザッカーマンの出自は彼女以外、知る由もない。
だからこそ、ジンはザッカーマンの帰還を諦めることが出来なかった。
『乗組員諸君。こちらは、技術長のヤーコフ・キリエンコだ。当機は間もなく発射体勢に入る。各員は個室に戻り着座して、シートベルトを着用せよ。繰り返す――』
しかし、彼のそんな思いとは裏腹にカイワンは発射体勢に入った。
生き残った全人類を乗せたこの船は、重力圏を突破した後にアイによる自動運転に移行する。つまり、ザッカーマンはただ一人、惑星に取り残されることになる。そう思うと、自然と腰が浮いてしまった。
「やっぱり、私は」
シンユエはそんな彼の手を握り、優しく座席に引き戻した。
「ジン…癪に障るけど、私達はアイツに生かされたネ。だから…ザッカーマンの意思を尊重するべきヨ」
「そうは言うけれど――」
瞳に涙を浮かべるシンユエが映り、その先は続かなかった。
ザッカーマンが失踪する直前。つまり、あの日に彼女と一戦交えたシンユエは直感で分かっているのだろう。本当にザッカーマンは、二度と私達の前に現れないことを。
「ゴメン…分かったよ」
ジンが再度、座席に腰を落ち着けると機体が激しく揺れ始めた。
遂に『カイワン』が発射される。
――同刻、ザッカーマン傭兵事務所にて
事務所のくぐもった窓からも、雲を引いて宙へ飛び立つ巨大な船がよく見える。
『カイワン』が作ったデブリの裂け目を抜け、新天地へと向かうのだろう。
だが、私にはあの箱舟に乗る権利は無い。
私は…生を実感するために人を殺さずにはいられない。結局は、その快感から逃れることはできなかった。そういう風に、創られたのだから仕方の無いことなのだろう。
だからこそ、最期にして最大の快感を得よう。そのために、一発だけ残してある。
「幸せになれよ…ジン」
――カチッ
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