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厄介ごとならザッカーマン傭兵事務所へ  作者: サカトウ
Case4.『404』
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11.傀儡

 ザッカーマンは、応急処置も施さず、血を点々と垂らしながら歩みを進めている。

 引き裂かれた頬から溢れる血が、呼吸を妨げて息苦しい。それに加え、息をする度に折れた肋骨が、肺に当たって呼吸自体が苦痛だ。


――ポーンッ


 息を荒くしながら廊下を進む彼女が、エレベーターホールに差し掛かった時、何故か一人でに一台のエレベーターが到着した。


「――ッ!」


 即座に銃を構えるが、開いた扉からは敵兵が現れる事は無かった。

 このエレベーターは、上階に向かうらしい。恐らく、最上階へ。


「いいわ…誘いに乗ってあげる」


 彼女は銃を降ろし、ソレに乗り込む。

 数分後、少しの浮遊感を覚える到着音が響き、エレベーターが開いた。

 プロテクト社のように、社長室に直接繋がるかと思っていたが、どうやら違うらしい。

 両脇に1枚ずつ絵画が飾られた短い通路の先に、黒檀調の荘厳な扉があった。

 空から舞い降りた女神が、群衆へと手を差し伸べる絵画。

 剣を掲げる男神が、武器を持つ群衆を導く絵画。

 二枚の絵画は、向かい合うように壁に掛けられている。

 そのどちらにも、群衆の先頭に立ち旗を掲げる人物が描かれていた。

 ザッカーマンは滑るように廊下を進み、勢いよく黒檀調の扉を開け放つと、窓際に佇む人影を認めた刹那、回転式拳銃の引き金を引いた。


――バズンッ


「この前よりも、格段に速くなっている。ただ、それだけでは私に掠り傷一つ付けられない。そんな事は、もう分かっているのだろう…アリシア・ザッカーマン」


 精確に頭を狙った射撃だったが、弾丸は彼の背後にあるガラスに埋まっている。

 前回は、何故避けられたのかすら分からなかったが、コイツの正体が分かった今は何の驚きも無い。目の前に存在する人間の形をしたモノは、カミラと同様に演算により導き出した未来を()ることで、撃つ前に回避行動を終えることが可能なのだ。


「だが安心したまえ。君が私を殺せず…いや、壊せずとも私は自壊するつもりだ」


 大地を枯らし、世界を血の海に沈めたモノが自らの意思で破滅する。

 そんな事があっていいハズは無い。

  

「それは、懺悔のつもり? だったら、私の手で殺されて欲しいわね。そっちの方が、後味がいいもの」

「ハハハ! 懺悔…懺悔か、君はそう捉えるか。やはり、カミラの筋書に寸分の狂いは無いという事か。ところで、君も廊下の絵画を見ただろう。アレを見て何を思ったのか、是非とも聞いておきたい。返答次第では、殺されてやってもいい」


 カミラ、そして筋書。アレの未来予測の事を言っているのだろうか。少々気がかりだが、満身創痍の今は、眼前の怪物を殺すことに集中すべきだろう。そう考えたザッカーマンは、癪に障ったが与えられた機会に手を伸ばした。


「女神は救済へ、男神は戦争へと民衆を導く…カミラとお前の相違を表した絵。ただ、そう感じた」

「相違か。残念だが、それは違う。あの絵は二つで一つであり、私とカミラも一つなのだ。そして、君が群衆を先導する旗振り役なのだよ。ハーメルンは、君も憶えているだろう。彼らは決して役目を放棄した訳では無い。悲惨な出自に関わらず、その逆境すら乗り越える精神と技量を持った英雄を、作り上げるための組織であった…そして、英雄の誕生はその死を持って完結し、永遠を得るのだ。さぁ、時間だアリシア・ザッカーマン。君の死が、世界再誕の最後の鍵となる」


 そう言い終えた人形は、ゆっくりとだが着実にコチラに歩みを進めて来る。

 アイツが語った内容が事実なら、カミラ…いや、惑星の軌道上を周回する只の機械が、私の運命を弄んだという事になる。ただ、群衆を纏めるための道化を作り上げるためだけに、私は殺されようとしている。


――バズンッ!


 銃声が一つに聞こえる程の早撃ちで脚、胸、頭を狙った弾丸が放たれる。が、そのどれもが空を切り、壁やガラスにめり込むだけだ。


 全ては計算された事だった、人類を導くためのマッチポンプに過ぎなかった。

 大戦を引き起こした巨悪…ソレと相討ちになった英雄。

 そして、壁を開き世界を救う、自然豊かな唯一の残存国家。

 私が死んで、アイツが自壊することで、その筋書が完成するわけだ。


「…気に喰わないわ。殺されたら、生きられないじゃない」

 

――カチッ


 そう呟いたザッカーマンは回転式拳銃の引き金を引くが、何故か弾丸は放たれることは無かった。

 残弾数は2発、決して弾切れというわけではない。そして、銃の構造上弾詰まりを起こす可能性は無い。計算が狂った。


――バズンッ


一瞬遅れて銃声が鳴り響き、人形の頭部を貫いた。


「だ…弾丸に細工を、したのか」

「やっぱり。銃撃を回避できたのは、私の『動き』を演算していたからのようね」


 仰向けに倒れて頭部からオイルが流れだす人形を、見下しながら彼女は続ける。


「私の受けた依頼は、フィクサーの暗殺。でも、ガワを壊しただけではアンタは死なないのでしょう? だから、私は友を一度殺したのよ」


 ザッカーマンはナイフを引き抜くと、無造作に人形の皮を剥ぎ取りだした。

 その様子を確認すると、制御の効かなくなった体をどうにか動かそうと、人形が小刻みに震え出した。


「ザッカーマン…き、君は…何をしようとしているんだ!」


 顔の皮が剥がれたソレは、人造の頭蓋に埋め込まれた眼球を震わせている。

 怯えているのだろうか、人間の紛い物のくせに。

 手にしたナイフに力を入れ、臍部(さいぶ)まで一気に引き裂いた。

 カミラと同じ構造ならば、この内部に中核が存在するはずだ。


「や、やめて…ください。貴女が、やろうとしているこ…とは、人類を破滅に」


 今までの男性の声とは変わり、カミラの声に発声が切り替わった。

 だからといって、彼女が手を止める訳もない。力任せに外装を引き剝がすと、剥き出しになった中核に、懐から取り出した記憶媒体を突き刺した。


「これで依頼は完了よ。さぁ、報酬を頂くわ」


お読みいただきありがとうございます。

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