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厄介ごとならザッカーマン傭兵事務所へ  作者: サカトウ
Case4.『404』
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10.障壁

 ザッカーマンが、オフィスと廊下を隔てる扉を開けると、微かに柑橘系の香気がフワリと匂った。瞬間、彼女は後ろに飛び退く。

 すると、サイレンサーの付いた拳銃を構えた兵士が、ゆらりと眼前に現れた。

 咄嗟に手に持つ回転式拳銃を、顔の前に上げた。


――ガキンッ!


 放たれた金属弾に回転式拳銃は弾かれて、後方へと飛んでいく。

 ザッカーマンは追撃を避けるため、さっとデスクの影に転がり込む。

 そして、すぐさまガスマスクを装着した。

 息を止め、腹這いになり床に耳を当てると、回り込むように足音が遠ざかる。

 弾いた銃を回収に行くのだろうか。

 

「オラァ!」


 足音が真横に来たのを確認し、立ち上がる勢いで、デスクを投げ飛ばす。

 予測が的中し、敵がデスクを躱すために横に飛んだ。

 この機を逃さず、床に転がる回転式拳銃に向かって走り出す。

 前転しながら銃を掴み立ち上がると、眼前に投擲された何かが迫っていた。


――パリンッ


 身を捻って躱そうとするが、寸での所で間に合わず左腕に当たって、中身の液体がシャツに掛かった。咄嗟に拳銃を宙に放り投げ、シャツを左肩から裂いて捨てる。

 この隙を逃さずに、接近した敵がナイフを突き出す。


「ぐっ!」


 左の掌で受けると、切っ先が手の甲を貫通した。

 そのままナイフを掴み、肘を破壊するために右手でアッパーを繰り出す。

 たまらず、敵はナイフを離して後ろに飛び退いた。

 そして、ザッカーマンはタイミング良く落ちて来た、回転式拳銃を掴もうとする。


――キュッ、ブンッ!


 そうはさせじと、敵は片足を軸にした強烈な回転蹴りで右手ごと銃を弾く。

 一撃では終わらずに、遠心力で勢いを増した二撃目が迫って来る。

 左腕でそれを防ごうとするが、直前で起動を変え前蹴りが顔に飛んできた。

 体勢の崩れたザッカーマンに追撃するため、大きく踏み込み発勁を放つ。

 しかし、ザッカーマンは無理に踏み留まろうとせず、仰向けに倒れていくことでソレを躱した。


――タンッ!


 地面に両手を打ち付け、敵に向けて勢いよく両足を繰り出した。

 ザッカーマンは一本の槍と化し、敵の腹部に突き刺さる。

 余りの勢いに、敵は吹き飛ばされて床に転がった。


「オェ…ゲホッゲホッ!」


 どうにか立ち上がった敵は、ガスマスクを外し呼吸を整え始める。

 それを確認したザッカーマンも、同様にマスクをはぎ取り、荒い呼吸を整えていく。


「いまだったら、まだ間に合うぞ…シンユエ」

「一流の暗殺者は確実に依頼をこなすネ。火傷女(スカルド)、バカな事言うんじゃないヨ」

「ソレを外したんだ、もう毒ガスは使えない。無理をするな」

「そっちこそ、お得意の早撃ちは封じられたヨ。大人しく殺されるネ」


 呼吸を整え終わった二人は、再度構えを取る。


「交渉決裂だな」

「元から交渉するつもり無いヨ」


 そう言うや否やシンユエは、隠し持っていた小瓶を投擲してきた。

 ザッカーマンは体を逸らし、辛うじて回避する。

 その隙を見逃さずに、シンユエは一気に距離を詰めてきた。

 すると、何を思ったのか一瞬後ろに振り返った。


――ブンッ!

 

 この機を逃さまいと繰り出した、ザッカーマンの拳が空を切る。

 すると突如、胸部に激痛が走り、仰向けに体が吹き飛ばされた。

 シンユエは、振り帰った次の瞬間には身を屈め、回転の勢いを利用して後ろ足でザッカーマンを蹴り飛ばしたのだった。

 

――ドンッ、ガラガラッ!


 オフィス机に激突し、書類やらパソコンやらがザッカーマンの上に落ちて来た。

 息が出来なかったが追撃を避けるために、どうにか立ち上がった。

 そんな彼女の目前に、再度ナイフが迫って来る。

 避けようとして前に一歩踏み出そうとするが、脚が動かない。

 ナイフが突きたてられる寸前に、顔を背けられたが頬を引き裂かれた。

 夥しい量の血が噴き出してくる。


「くっ」


 幸運な事に、それが目潰しとなってシンユエが怯む。

 ザッカーマンは、ナイフを握る彼女の腕を掴み力任せにへし折った。

 彼女の反撃はそれだけには止まらず、シンユエの手をナイフごと鷲掴み、彼女の太ももに突き刺した。


「うぎゃぁ!」


 激痛に悲鳴を上げるシンユエに、体当たりを食らわせ地面に叩きつけた。

 ザッカーマンは、そのまま馬乗りになって、シンユエの首をぐいぐい絞めつける。

 

「あぐぅ…おぇ…」


 うめき声を上げつつも、シンユエはどうにか抵抗しようと、左手で突き刺さったナイフを引き抜いた。そして、ザッカーマンの背中に深々と突き立てた。それでも、首を絞めつける彼女の手が緩まることは無かった。むしろ、力が強まっている。

 霞ゆくシンユエの視界には、裂けた頬から血を垂らし、笑顔を浮かべる死神の顔が映っていた。


――ジン君…ごめんね。約束、守れそうにないよ。


 一粒の涙がシンユエの頬を伝い、彼女の瞳は閉じられた。


「何故泣く、シンユエ」


 やはり、ジンに深入りしすぎたのだろう。

 平穏な生活、無償の愛、幸福な時間。

 兵士にとって、それらは毒でしかない。判断を鈍らせ、技にもキレが無くなる。

 シンユエも分かっていたはずだ、それでも彼女はジンの愛情を受け入れた。


「お前は…私と違って、前に進むことが出来たんだな」


 ザッカーマンは気を失ったシンユエを一人残し、社長室を目指して歩み出した。

お読みいただきありがとうございます。

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