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厄介ごとならザッカーマン傭兵事務所へ  作者: サカトウ
Case4.『404』
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09.紅蓮

 気を失ったジンをコンテナに取り残し、ザッカーマンは集積場を後にする。

 暴徒達による侵攻が始まったのだろうか、遠くに見えるハイウェイで点々と火の手が上がっている。だとすれば、好都合だ。彼女は愛用の機体に乗り込むと、EZフロント社を目指して、上層街の大路地を駆ける。


「随分と、様変わりしたわね」


 路上には乗り捨てられたホバークラフトや、取り残されたケガ人も散見される。

 下で何が起ころうとも、我関せず。その利己的で排他的な思想が、この災厄を引き起こした。そう考えれば、当然の報いだろう。彼らの助けを呼ぶ声など、彼女の耳には入らない。

 

――キュラキュラキュラ


 履帯の駆動音が近くに聞こえる。

 ザッカーマンは機体から降りて、物陰に身を潜めた。

 すると、音は次第に遠ざかっていく、捜索隊という訳では無さそうだ。

 彼女が顔を覗かせると、5台のマンティコアが随伴歩兵を連れて、ハイウェイ方面へと進んでいた。どうやら、フィクサー直属の部隊が動き出したらしい。

 彼らの部隊規模は不明だが、かなりの戦力を投入したはずだ。いくら数が多いとは言え、暴徒達は成すすべなく蹴散らされてしまうだろう。

 残された時間は少ないが、確実に守りは手薄になった。この機を逃してはいけない。

 ここは、愛機に乗って行きたいところだが、ハイウェイに向かう部隊と鉢合わせしたら目も当てられない。そう考えたザッカーマンは、愛機の後部座席から大型のアタッシュケースを取り出し、人目を避けるためにビルの谷間を通り抜けていく。


――重い

 

 アタッシュケースを持つ手が痺れ出した。

 いつも荷物を押し付けていたから、ツケが回って来たのだろう。

 それでも、どうにか歩みを進めていき、ようやく目的地の付近に辿り着く。

 既に日は落ち、曇天が月を隠したユニオンは漆黒に包まれていた。

 それにも関わらず、彼女が身を潜めるビルの谷間、その面前に広がる大路地は昼間の様に明るい。ザッカーマンが慎重に顔を覗かせると、その訳が分かった。 

 遠くに見えるEZフロント社、その面前に組まれた防衛陣地が、数多の投光器で道路を照らしているのだ。眩しすぎて、敵の数すら分からない。


「想定通りね」


 ザッカーマンはそう小さく呟くと、顔を引っ込め、アタッシュケースを開いた。中には、分解された武器が詰め込まれていた。彼女はそれらを手際よく組み合わせ、大口径の狙撃銃、迫撃砲、そして大きな銛が装填されたランチャーを作り上げた。

 スナイパーライフルと迫撃砲には、受信機が付いている。ザッカーマンの持つ通信機で、遠隔操作が可能なのだ。


「大枚叩いたんだから、がっかりさせないでよ」


 彼女は迫撃砲をその場に残し、右手にあるビルの裏手に回り、非常口に手を掛ける。


――ガチャ…


 普段なら、数秒後に通報が鳴り響く。だが、今日は違う。

 ネットワークを介するシステムは、アイの暴走で完全に崩壊しているのだから。

 それを知っていた彼女は、扉のすぐ脇にある非常階段を、狙撃銃とランチャーを担いで上がっていく。そして、息も絶え絶えになりながら、彼女はやっと32階に辿り着いた。

 階段の表示からすると、屋上までようやく半分といった所だ。


「はぁはぁ…これ位、上がれば十分かしら」


 ザッカーマンは息を切らして、踊り場の防火扉を押し開け、事務机がズラリと並ぶオフィスを突っ切り、ガラス張りの窓辺に近づく。ここからなら、防衛陣地がよく見える。

 即興のバリケードと、それに沿うように並べられた数多の投光器。その後方には、2台マンティコアと随伴歩兵達が、EZフロント社を背にして睨みを利かせていた。


「思っていたよりも、かなり小戦力…だから、あんな大袈裟に防衛陣を組んだってわけね」


 適当なデスクを引き摺り、背負っていた狙撃銃のバイポットを開いて設置する。そして、彼女はデスクの上に寝そべり、照準を覗き込みマンティコアに狙いを付けた。勿論、いくら大口径の狙撃銃とはいえ、マンティコアの特殊装甲を貫けるわけではない。狙いは別にある。


「…よし」


 狙撃銃の受信機を起動させた彼女は、踵を返し再度階段を上り始めた。

 長物はランチャーのみとなり、いくらか足取りは軽い。

 それでも、屋上50階に上り切る頃には、脹脛(ふくらはぎ)がつりそうになっていた。

 扉を開けると、強風が吹きつけてくる。その風に乗った、微かな硝煙の匂いが鼻についた。

 振り返ると、ハイウェイが地獄への坂路のように紅蓮の炎に包まれていた。

 強風に煽られた炎は下層街から高架へ、そして上層街へと燃え広がっている。

 

「綺麗ね」


 ただ、そう感じた。

 そして彼女は、自らもその地獄絵図に一筆加えるために、通信機を起動した。


――ズドンッ、ズドンッ、ズドンッ

 

 足元から重低音が響き、ガラスが大路地に降り注ぐ。

 狙撃銃から放たれた弾丸は、マンティコアに吸い込まれ、その全てが装甲に弾かれる。

 突然の襲撃にも関わらず、随伴歩兵は一斉に制圧射撃を開始した。

 罠を警戒してか、彼らは防衛部隊と遊撃部隊に分かれ、コチラのビルに向かってくる。

 屋上からソレを見下す彼女は、不敵な笑みを浮かべ、ランチャーを担ぎながら再度通信機を起動する。


――ポンッ、ポンッ…ドンッ、ドンッ!


 迫撃砲から放たれた砲弾は、弧を描きながらビルの谷間から顔を出し、遊撃部隊の頭上で破裂すると、燃え盛る炎が降り注いだ。

 それと同時に、ザッカーマンはランチャーの引き金を引く。ロープの付いた銛が射出され、EZフロント社の外壁に突き刺さるが、地上は阿鼻叫喚の嵐で誰も頭上を気にする者はいなかった。ランチャーを適当に固定し、ロープを張ると丁度よく傾斜が付いた。


「途中で切れないでよね」


 ホルスターから回転式拳銃を抜き、ロープにフックを掛けると、ザッカーマンは一気に滑り出した。


――バズンッ、バズンッ!


 回転式拳銃の銃撃によって、窓ガラスにひびが入る。

 タイミングを見計らってフックを手放し、勢いそのままに窓を突き破った。

 受けを取り素早く起き上がる。だが、転がり込んだオフィスには、敵の姿は見当たらない。

 

「なんだが、拍子抜けね」


 そう呟くと、ザッカーマンは社長室を目指して歩み出した。 


お読みいただきありがとうございます。

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