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厄介ごとならザッカーマン傭兵事務所へ  作者: サカトウ
Case4.『404』
54/58

08.深遠

 日は暮れ始め、地平線の彼方へと太陽が沈みゆく。

 未だ黒煙が立ち昇る上層街は、夕陽に照らされて赤々と染め上がっている。 

 その光景を背に、ザッカーマンは西端部に位置する集積場までやってきた。

 そして彼女は、山積みになったコンテナの間を通り抜け、『AH-Z-628』の識別番号が刻印された、青色のコンテナの前で立ち止まる。その扉は、ほんの僅かだが確実に開いていた。


――スチャ…


 彼女は懐のホルスターから、回転式拳銃を引き抜き、慎重に扉に手をかける。

 やはり、鍵が掛かっていない…敵は中で待ち伏せているのだろうか。

 ここは一気に突入して、不意を突きたい所であった。がしかし、重量のある扉を開けて、すぐさま中に躍り込むには一人で行うのは不可能だ。

 そうなれば、考えられるもう一つの可能性に賭けてみるしかない。

 このコンテナの鍵を持っているのは、ザッカーマン以外にもう一人いるのだから。


「中にいるのは、お前か」

「その声は…。どうぞ中へ、隊長」


 私の呼び掛けに反応するように、扉が開け放たれる。

 出来ることなら、与えた役目を終えつつある、彼を巻き込みたくなかった。もう私が手に入れる事はできない、触れると壊れてしまいそうな…小さく儚い幸福。

 彼には過去よりも、その手で作り上げた未来を大切にして欲しかった。だが私は、彼の義理堅い一面もよく知っていた。

 この手で、彼を突き放す。そんな事をすれば、それこそ彼を過去に縛ってしまう。だからこそ、あえて選択の余地を与えた。そうすれば、目を覚ますと思ったから。

  

「ジン…何故、ここに居る」

「隊長なら、必ずここに来ると思ったからですよ。なんたって、今回の標的はあの『フィクサー』ですからね。手持ちの武装だけじゃ――」

「違うわ。ここに至る経緯ではなく。何故、私に手を貸すつもりになったのか。その理由を聞きたいの」

「あぁ…ケジメを付けるためですよ。この仕事が終わったら、傭兵を止めるつもりなんです」

「それは、アイツのためか?」

「…はい」


 しばしの沈黙の後、彼は力強く頷き、ハッキリとそう言った。

 考えうる中で、最悪の選択を取られてしまった。

 こうなれば、もう最後の手段に出るしかない。

 

「だったら、お前はクビだ」

「え?」


 突然の解雇宣言に、ジンは呆気に取られてしまった。

 そんな彼を突き飛ばしザッカーマンは、コンテナに保管されていた装備を手に取っていく。

 ドンッと尻もちをついた彼は、ハッとして立ち上がると、彼女の肩に掴みかかった。はずだった。肩を掴んだはずの手は、何処までも沈んでいき、ジンは前のめりに体勢を崩す。

 寸前に体をずらしたザッカーマンが、彼の懐へと屈み込んだのだ。彼女はそのまま、彼の脚を掴み後方に投げ飛ばす。


 ドンッ!


 ジンは掴みかかった勢いのまま背中を、地面に叩きつけられた。

 激痛に顔を歪めながら、どうにか薄く目を開けると、眼前に銃口が突きつけられている。


「聞こえなかったのか? お前はもう、部外者なんだ。もう一度、依頼遂行の妨げになる行動を起こせば、お前を排除する」

 

 そう告げた彼女の顔に感情は無い。 

 宣言した通りの事を、躊躇なく実行することが出来る。

 そんな顔をしていた。少なくとも、ジンにはそう見えていた。

 だとすれば、どうして銃口が小刻みに震えているのだろうか。


「隊長、それは本心なんですか?」


 そのセリフを吐いた、ジンにアイの姿が重なった。

 突如、右手が震え出し拳銃を取りこぼしそうになるが、左手で抑え込みどうにか堪えた。

 彼女のそんな様子を見たジンは、畳み掛けるように問いを重ねる。


「だいいち…フィクサー暗殺依頼を即答した時点で、隊長は様子が変だった。いつもなら、対策を練ってから行動に移すはずなのに…。貴女は知っていたんだ、この依頼が来ることを。だから準備期間として、数か月前から受ける依頼を選別し始めた。そう…あの日からだ。プレベントから帰還した、あの日から…一体何を『報酬』として得たんですか」


 あの日、私は…カミラの正体を知った。

 そして副次的に、彼の正体も知ることが出来た。

 彼らは救いの神となるべく、人類によって作られた神々の化身。

 その『正体』は今も惑星の軌道上を周回し続けている、唯一の人工衛星に搭載された量子コンピューターなのだ。

 その機械仕掛けの神は、人類生存のために、二つの異なる道を選んだ。

 一つは、死にゆく大地から逃れる道。

 一つは、死にゆく大地を再誕させる道。

 だが、どちらの道へ進むにも人類は幼稚すぎた。

 

――そこで私は、彼を作り出したのです。


 唐突に、カミラの声が頭をよぎった。

 今でもあの光景は、ハッキリと覚えている。

 むき出しのコア、それに繋がる無数のパイプ。

 血の通わない、ただの人形。

 ソレが私に、人間の言葉で語りかけてくる。


「彼の役目は、人類に協力を促し、技術を発展させる事だった。始めの内は、それで上手くいっていた。だけれど、ある時を境に技術の発展は、頭打ちになってしまいました。そこで彼は、人類史を紐解いてしまいました。彼は、戦争が飛躍的な技術発展を促すことを、学んでしまったのです」


 救うために、殺す。

 それが、アイツの辿り着いた答えだった。


「そこで私は、もう一つの道を進むことに決めたのです。創造主たちの国を守り、彼らを(そら)へと逃す道を」


 そして彼女は巫女として、創造主たちを導きだした。

 長き時を経て、彼女の努力は実を結び、遂には宙への道が開けたのだ。


「私に残された役目は、新天地への道案内のみとなりました。ですが、ここに来て、今再び彼が、私達の前に立ち塞がろうとしています。いずれ近いうちに再度、貴女の力を借りる事になるやもしれません」


 そう言い切った人形は、ジンへと姿を変える。

 彼に真実を告げたところで、一体何になるというのだ。

 

――これは世界に対する、私の無意味な復讐劇なのだから


 そう胸の内で呟いたザッカーマンは、握りしめた拳を振り下ろした。


お読みいただきありがとうございます。

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