04.雌伏
『ニューエイジ』、古き知識で新たな時代を――
会社のHPには、その謳い文句と共に事業内容が紹介されている。主力としているのは、汚染地帯から回収し、リバースエンジニアリングに成功した浄水技術だ。彼らは、下層街から排出された汚水を浄化し、飲み水にすることができる程、高性能な浄水設備の建設およびメンテナンスを行っている。
「一見すると、民需品を扱う企業ですね」
「表向きはね、でも求人情報のコレ。明らかに回収した遺物の中で、不必要なモノを他の企業に売り飛ばしてるわ」
そう言いながら彼女は、HPの隅にある求人情報欄を開く。
――汚染地帯での調査員募集中!――
・報酬は基本給+出来高制度
・職歴問わず
・装備全支給(破損時の負担なし!)
・ホバークラフトで現地へ送迎
―――――――――――――――――
「怪しすぎますが、確かに、追い詰められた傭兵なら、飛びつきたくなるような条件ですね」
「ええ、競りを介さずに、しかも装備全支給とはね。よっぽど稼ぎがいいのかしら」
「隊長、調査員を増やすため『ブロウ』に、競りへの介入を依頼したんですかね?」
「短絡的だけど、素直に考えればそうなるわね」
ふぅと一息つくと、彼女はドカッとソファに腰を下ろす。
ジンは、気を利かせて備え付けの冷蔵庫から、コーヒー味のペットボトル飲料を取り出し、彼女の向かいに座る。
「その言い方だと、ニューエイジが依頼者だとは考えていないんですね。はい、どうぞ」
「ん、アリガト。確証とまでいかないけど、ニューエイジは傭兵を現地へ輸送する任務しか依頼してない感じがするわ」
金属が安定して生産できないユニオンでは、ホバークラフトが移動手段として民間人の主流となっている。ただ、それは舗装された路上の話だ。それで荒野を走行するには、それなりの運転技術が必要だった。
するとザッカーマンは、ブロウの収支リストを取り出し、ニューエイジとの取引時期と報酬額を、指でなぞっていく。
「ほら、定期的に一定の報酬をブロウは得ている。私が気になったのは、その取引開始の切っ掛けね」
そう言って、最近の記録をなぞる指は、数年前のものへと移る。
「ん、噂の広まる三年前、かなり高額な報酬の支払いがありますね。汚染地帯から何かを回収した…?」
「そう、ソレが気になって色々調べてたんだけど――」
そう言いながら、彼女はあるネットニュースを開く。
『大手PMC【ブロウ】、プレベントの遠征部隊を撃退!その手腕と、経営理念に迫る!』
「あの『プレベント』を撃退するとは、スゴイですね」
『プレベント』と出会ったらすぐ逃げろ。そんな風に、傭兵達は口を揃える。唯一大戦を生き残った、その国家の遠征部隊は、基本的に戦車3台に装甲車5台を一単位として行動し、兵士はパワードスーツに身を包んでいる。ユニオンの企業連合でさえ、勝つことは奇跡と言っても過言ではなかった。
「それにしても、唯一の残存国家が狙う程のモノを回収したってことですよね。ソレって一体何だったんですか?」
「それが、どこにも情報がないの。不気味な位にね」
「じゃあ、ソレの正体を暴けば、ブロウ社の依頼者も芋ずる式に分かりそうですね。今回も電子戦で――」
そう言う彼の前に、ザッカーマンは通信デバイスを滑らせる。
「いや、こうも情報が表に出てないところを見るに、表層から侵入しても、回収物の情報は得られないでしょうね。今回は直に内部から侵入する。アイツに電話を掛けておいて」
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