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厄介ごとならザッカーマン傭兵事務所へ  作者: サカトウ
Case4.『404』
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03.淵藪

「やっぱりジンの様には、いかないか」


 ザッカーマンは独りごちると、タブレットを側溝に投げ捨てる。

 『フィクサー』の情報を入手するために、ユニオンの運営本部にアクセスしようと試みたが、防衛網が堅すぎて、彼女の腕では突破できなかった。無謀にも思えるが彼女も、考えなしにクラッキングを試したわけではない。そうせざるを得なかったのだ。


 そもそも、ユニオンを取り纏めるフィクサーという存在は、毎年行われる各企業の社長の投票によって決定される役職なのである。勿論、投票結果は一般人には公開されないばかりか、いつ投票が行われたのかも分からない。ネット上の噂では、厳重な個人情報の保護のため、当選者以外の投票者にも結果は知らされないらしい。

 だからこそ、彼女は限られた選択肢の中で、フィクサーの職場である運営本部にクラッキングを仕掛ける事を選んだ。それも、わざわざ位置情報を発信しながら。


「餌は撒いてみたけれど、喰いつくかどうか…」


 コートのポケットに手を突っ込みながら、路地を数分程歩いていると、みすぼらしい恰好をした男達が前方でたむろしていた。彼女は彼らに構わずに先へと進もうとするが、すれ違いざまにその内の一人が、無言で立ち塞がって来た。

 ザッカーマンが立ち止まると、彼女を囲むように残りの者達も立ち上がる。


「アンタ、俺たちに金を恵んでくれないか」

「チッ…やっぱり外れか」

「は?」


 突如、虚を突かれた男の喉仏がパックリ裂け鮮血が飛び散る。

 ザッカーマンは返り血を避けるように、身を反転させ男の背後に回り込む。

 その左手には鈍く光るナイフが握られている。

 残党たちも遅れて、各々が懐から拳銃を取り出した。


「引き金に指を掛けないほうが身のためよ。そんな事したら、アナタ達も殺さなきゃいけなくなる」


 彼らを睨みつけながら、彼女は不敵に片頬を吊り上げる。

 そんなザッカーマンに怖気づいた男達は、尻尾を巻いて逃げていった。

 異様な殺気を放つ、ただ一人を除いて。


「あら。獲物はちゃんと喰いついていたってわけね」

「答えろ傭兵。何故、本部のサーバーに攻撃を仕掛けた」

「そうするしか、方法がなかったからよ」

「ならば、問いを変えよう。誰の指図で動いている」

「そっちが、現フィクサーの名前を教えてくれるなら。答えてあげてもいいわよ」


 男にそう言い返した瞬間、レーザーポイントが彼女の頭部と胸部に照射される。

 さり気なく照射元を探ると、一本は左前方にある商店の二階から、もう一本は男のかなり後方にある、3階建てのオフィスビルの屋上から伸びているのが分かった。 


「もう一度聞こう。誰の指図で――」


 ザッカーマンは男の問いを聞き流し、体を素早く捻って右手をポケットから引き抜いた。

 その手には、回転式拳銃が握られている。


 バズンッ


 彼女が放った凶弾は、男の胸を貫いた。

 それと同時に、ザッカーマンは身を屈めて男に向かって体当たりをかます。


――グシャ


 一瞬遅く二発の弾丸が飛び交い、一発は男の頭を吹き飛ばし、もう一発はザッカーマンの脇腹を掠めていった。


 バズンッ、バズンッ!


 彼女は牽制のために発砲しつつ、血の噴き出る首無しを盾にして、左前方の商店に駆け込んでいく。その間も屋上からの銃撃は続いたが、そちらは距離があるおかげで、死体の四肢ばかりに着弾していた。


 ガシャン!


 そうして商店までたどり着いたザッカーマンは、コートで身を守りながら、ショーウィンドウを突き破り中へと侵入した。彼女は素早く起き上がり、カウンターの奥に二階へと続く階段を見つけた。足音を殺して二階へと上って行き、窓際の部屋へと続く扉の脇で立ち止まる。

 敵が定石通りに動いているのなら、スナイパーの他にスポッターも内部にいるはずだ。


 ギギィ…


 ドアノブに手を掛け慎重に扉を開けるが、特にリアクションは無い。

 彼女が意を決し部屋の中へと踏み込むと、そこは既にもぬけの殻だった。

 罠を警戒しつつ窓際へと近づくと、外壁に打ち付けられた杭から、降下用のロープが路地に垂れているのを視認した。

 

「ふぅ、結構危なかったわね」


 ザッカーマンは、ため息を吐きながら壁にもたれて座り込む。

 銃弾が掠めた脇腹に手を当てると、ベットリと血が付いた。

 傷口に指を突っ込んでみたが、出血量の割に傷は浅いようだ。

 

 バズンッ

 

 何を思ったのか、彼女はおもむろに拳銃の引き金を引き、すぐさま銃口を脇腹に押し付ける。熱されたソレが、ジュッと傷口を焼く。


「うぐっ」


 そうやって止血を済ませたザッカーマンは、ゆっくりと立ち上がり窓から外を眺めた。

 路地には騒ぎを聞きつけた野次馬が集まっており、敵が待ち伏せているような雰囲気は無い。

 それを確認した彼女は階下へ赴き、なんらかの手掛かりを求め、ズタボロになった首無し死体が身に着ける血塗れの衣類を漁り始める。すると、上着の裏ポケットの所で、何か固いモノが手に触れた。彼女はソレを掴んで、引っ張り出す。


「これは一体…」


 男が持っていたモノは、見たことも無い紋様が刻印された鈍色の硬貨だった。

 そもそも、金属が貴重なユニオンでは硬貨は流通しておらず、本部が発行するクレジットと呼ばれる紙幣のみが「カネ」として認められている。それを踏まえると、この硬貨の役割はおのずと絞られる。


「身分証の代わりなのかしら。なんにせよ、手掛かりは見つかったわ」


 ボロボロになったコートで血を拭うと、ザッカーマンは商店の裏口へと姿を消した。


お読みいただきありがとうございます。

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