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厄介ごとならザッカーマン傭兵事務所へ  作者: サカトウ
Case4.『404』
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02.幸福

 ヒルダからの手紙を読んだ後、 ジンは上層街北端に位置する、シンユエと同棲しているマンションの一室へと戻ってきた。ここは、ハイウェイが近いため上層街の中では治安が悪いのだが、その分家賃も安い。もっとも、このマンションを同居先に決めたのは、下層街を拠点とするジンと、上層街を主な活動範囲とするシンユエの折衷案という要因が大きい。


――ピピッ


 ジンがカードキーをかざすと、玄関の扉が開く。

 開錠音に反応したのか、リビングからシンユエが顔を覗かせていた。

 

「ん? やけに帰りが早いネ」

「まぁ、色々あって。そっちも、この時間に居るなんて珍しいね」


 さかしまに問いかけられた彼女は、眉尻を下げて困った顔になる。


「アー…うん。ちょっとジン君に、悲しいお知らせがあるヨ」

「えっ」


 同居から3ヶ月は経つが、ここにきて別れ話でも切り出すのだろうか。

 最近ではシンユエの表情も、柔らかくなったように感じていたのだが、気のせいだったのかもしれない。もしかすると昨日、彼女がとっておいたお菓子を勝手に食べて、怒らせてしまったのが原因だろうか。


「取り合えず、こっちに来てヨ」


 シンユエは玄関で固まるジンの手を取り、リビングへと彼を引っ張っていく。

 そこに連れ込まれたジンは、目前に広がる異様な光景に目を見張った。

 なんと、部屋を埋め尽くさんばかりの武器や薬品が、整然と並べられているのだ。

 恐らくは彼女の持つ、全ての武装が揃っているに違いない。

  

「シンユエ。君は一体何を始めるつもりなんだ」

「お得意様から、特大の依頼が舞い込んだのヨ。ここにあるモノ、全部使うぐらいの大仕事ネ。それで…少し言いにくいんだけど、ここを拠点に仕事がしたいから、ジン君は二週間ぐらい部屋を空けて貰えナイ?」


 別れ話ではないようで安心したが、新たな不安が沸き上がって来た。 


「別に、それはいいんだけど。こんなに大掛かりな準部が必要だなんて、かなり危険な依頼なんじゃ」

「ふふっ、私が受ける依頼の中で危険じゃないモノなんてないヨ。今回は、標的が多いだけネ。だから、安心するといいヨ」


 そう言い切る彼女は、既に仕事をする時の顔になっていた。

 ザッカーマンもそうなのだが、一度こうなるとテコでも意思を曲げることはない。

 ジンは無駄な抵抗と分かっていながら、シンユエを思いとどまらせようとする。


「シンユエだって、ユニオンの現状は知っているだろう。いくら、君がその道のプロだからって――」


 そう言い切る前に突然、彼女はジンに抱き着いてきた。

 すると、彼の耳元で小さく呟く。


「この仕事が終われば、大金が手に入るネ。そうしたら…」


 シンユエはジンの服をギュッと掴み、言葉を続ける。

 

「殺しはやめて、BARでも始めようと思ってるヨ。その時は一緒に」


 いつも彼女はよく、冗談を言ってからかってくる。

 ただ、今回ばかりは違う。微かにだが、声が震えていた。

 殺しを止めるということは、彼女にとっては今までの自分を捨てるのと同義なのだ。

 それでも、これからの幸せを思って決心してくれた。

 そして、ジンはその思いに応えられない程、腑抜けた男ではなかった。

 

「勿論、一緒についていくよ」

「ありがとネ。ジン君」


 しばしの間、二人は抱きしめ合った。

 これ以上言葉を交わさずとも、お互いを思いやる気持ちは十分に伝わった。

 シンユエと共にBARを経営するならば、ジンも傭兵稼業から足を洗う必要がある。だとすれば、ケジメを付けてから世話になったザッカーマンの元を去るべきだろう。

 既に彼の心は決まった。


「実はこっちにも、大仕事が舞い込んでね。暫くはココを空けるつもりだったんだ」

「そうなのネ。だったら、コレを持っていくといいヨ」

 

 彼女はテーブルに並べられた薬品瓶の中から、一つを選んでジンに手渡す。


「殺菌と止血作用のある薬ヨ。私も何度かソレで命を救われたネ」

「同じモノが見当たらないけど、君の分は?」

「心配しなくても、ちゃんとあるヨ」


 彼女の目が少しだけ泳いだような気がするが、思い違いなのだろうか。

 ただ真偽を確かめようとしても、薬物に対する知識が少ないジンでは、テーブルの上に並べられた瓶の中に同様のモノがあるのか判別がつかない。ここは、シンユエの事を信じるしかない。


「そうだな…こっちからも渡したいモノがあるから、ちょっと待ってて」


 ジンは自分の部屋に戻り、型落ちした拳銃を一丁取って来た。


「大分古いけど、それ何年前のモデルなのヨ」

「プロテクト社の支給品だから…5年ぐらい前かな。でも、シンユエに使って欲しいわけじゃなくて、お守りとして持ってて貰いたくて」

「お守り?」

「守りたいと思った人を、初めて救った銃なんだ。だから、一番大切な人の事も守ってくれると思うから」


 そう言って渡された拳銃を、シンユエはまじまじと眺めた後、動作確認を行い始める。

 スライドも滑らかで、トリガーに引っ掛かりも無い。弾倉の装填も違和感なく行えた。

 古い型で固形燃料弾にしか対応していないが、実戦でも十分使い物になる。


「よく整備されてるネ。万が一の時は、コレに頼らせて貰うヨ」

「そうならない事を祈ってるよ。じゃあ、隊長に会わなきゃいけないから…もう行くね」

「そんな今生の別れみたいな、悲しい顔をしないでヨ。こっちまで、不安になるネ。プレゼントあげるから、もっとシャキッとするといいヨ」

「え、プレゼント?」


 不意にシンユエが顔を寄せると、柔らかいモノがジンの口に触れた。


「ほらっ、さっさと行ってくるといいネ。アイツを待たせると、ロクな事起こらないヨ」


 少しだけ頬を染めたシンユエはそう言って、呆然と立ち尽くすジンを玄関先へと追いやるのであった。



お読みいただきありがとうございます。

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