01.依頼
世界が光に包まれたあの日から、ユニオンには不穏な雰囲気が漂い出した。
競り市場に出回る依頼は、殆どが各地の資源基地からの物資輸送となった。これは、企業が何か大規模な行動に備えている事を明示していた。それを察知した傭兵達は金の臭いを嗅ぎ取り、来るべき時に備えて装備を調達し始めた。
また、最近は上層街からの食品の流通が減り、下層街では商人が食料を売り渋り食品類の価格が高騰していた。
それ故に、傭兵にもなれない食い詰め者達は、生きるために商店の襲撃を繰り返し始めてしまう。下層街の商人達がそれを見過ごすはずもなく、彼らは結託して治安維持を専らとする企業に大枚をはたいて、暴徒の鎮圧を依頼した。これにより、事態は良くなるどころか悪化の一途を辿ることになる。
『昨夜未明。下層街北西部において治安維持部隊と暴徒らの間で、激しい銃撃戦が行われ――』
事務所でTVから流れるニュースを見ていたジンは、ふぅとため息をつく。
「今度は北西部でも…もうどこで、暴徒による襲撃が起きてもおかしくないですね」
「まさに、窮鼠猫を嚙むね。企業が下層街の問題に、巻き込んだのがそもそもの間違いなのよ。彼らが介入するまでは、暴徒達も必要最低限の収奪行為しかしてなかった。それなのに、今では私兵部隊に対抗しようと、収奪の対象は武器や精密機器の類にまで広がる始末。上層街に飛び火するのも、時間の問題ね」
「最近だと金になるからといって、暴徒に加わる傭兵も後を絶たないらしいですよ。彼らが加わることで、ユニオン中に戦火が広がっていくのは間違いないでしょうね。ホント、嫌になりますよ…はぁ」
――ドンッ、ドンッ!
ジンが再び大きなため息を吐いていると、事務所のドアが叩かれた。
二人はソレに反応して、すぐさま拳銃を抜く。
ここに暴徒の手が及ぶ可能性は、限りなく少ないが用心に越したことは無い。
「悪いけどその扉を開ける前に、要件を言って頂戴」
ザッカーマンがそう問いかけると、少しの間を置いてドアの隙間から封筒が差し込まれた。
その直後に差出人らしき者が、階段を下りていく音が聞こえて来た。
すぐさま窓の外を確認すると、スーツに身を包んだ男の後ろ姿だけ捉えることができた。
手紙を読めということなのだろう。
「罠…ではなさそうですね」
ジンの言葉に頷き、ザッカーマンは差し込まれた封筒を拾う。
裏返してみると、そこには見覚えのある紋様が浮き出した封蠟が施してあった。
「あっ、それはレイゼン家の家紋じゃないですか」
「恐らくは、送り主はヒルダでしょうね」
ザッカーマンは、早速ナイフで封を切り中身を確かめる。
封筒の中を覗き込むと、中には二つ折りにされた一枚の紙が入っていた。
彼女はソレを取り出し、ジンにも見えるようにテーブルの上に広げる。
『ヒルダ・ファン・レイゼンの守護者として、フィクサーの暗殺を依頼します。報酬はお二人の望むモノを差し上げます。この依頼を受けるか否かは、貴方達の自由です。この手紙の返信は要りません。行動で答えを示してください』
手紙の内容に目を通したジンは、生唾を飲み込んだ。
「隊長。ここに書かれている『フィクサー』って…」
「アナタの想像している通りでしょうね。ヒルダは、私達にユニオンの全てを取りまとめる元締めを、殺せと依頼してるのよ」
「どうするつもりですか…隊長」
ザッカーマンは、迷いもせずに即答する。
「私はやるつもりよ。ただ今回ばかりは、アナタに協力しろと強要はしない。もし、この大仕事を私と一緒に成し遂げたいのなら、自分の意志でついて来なさい」
そう告げられたジンは、すぐには彼女の問いに答えることはできなかった。
それもそのはずだ。『フィクサー』を敵に回すということは、企業を敵に回すのと同意であり、それはユニオンにおいて死を意味する。しかし、だからと言って何度も命を救ってくれたザッカーマンが、死地に飛び込もうとするのを黙って見捨てる訳にはいかない。
「私は――」
隊長についていきます。
そう発しようとした瞬間、シンユエの顔が頭によぎった。
自分がこの依頼に、首を突っ込むことになれば、彼女にも危険が及ぶだろう。
そう思うと、言葉が続かなかった。
「まぁ、今すぐ決めなくてもいいのよ。今日一日、十分に悩んでから明日答えを出しなさい。今のアナタには、守るべき幸せがあるんだから」
ザッカーマンはそう言い残すと、ジンを置いて事務所から去っていくのであった。
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