00.序章
「寒っ」
高層ビルのフロントから外に出た途端に、凍えるような寒さが身に染みた。
ハーッと、手に吹きかける息も真っ白だ。
空を見上げると今日も分厚い雲が空を覆っている。
もう何週間も太陽を、見ていない気がした。
「おい、ジン! ぼさっとしてると置いていくぞ」
「あっ、隊長。ちょっと待ってくださいよ」
既に動き出しているホバークラフトに、ジンも急いで飛び乗った。
ザッカーマンはそれを確認すると、ハイウェイを目指して機体の速度を徐々に上げていく。
「それにしても、最近は楽な依頼が多いですね。今日は武器のテスターで、前は施設の警備でしたよね」
「だから、どうしたの。楽に金を稼げるに、越したことはないでしょ」
「いや。なんだか、隊長が意図的にそういう依頼を選んでる感じがして」
今回の依頼もテスターの他に、密売人グループの鎮圧も別企業から依頼されていたのだが、ザッカーマンはそれを断っていた。テスターのスケジュール的に、十分対応可能ではあったので、いつもならば即答で依頼を受けていたはずなのだ。
「そういう気分ってだけよ。あなたも休みが多くて、嬉しいんじゃないの」
「まぁ…そうですけど。もし、私達の事を気に掛けてるなら――」
確かに休みが多いおかげで、彼はシンユエとの同棲生活を十二分に楽しめていた。
ただ、自分たちの事を気遣って依頼を選別しているのなら、迷惑を掛けていることになる。
「自惚れすぎよ。私にもやる事があるってだけ」
「それなら、いいんですけど」
ザッカーマンの冷たく突き放すよう態度で、ジンはその事について追及するのは諦めた。
今や二人の乗る機体は、ハイウェイの中間地点に差し掛かっていた。
ここからは、ユニオンの周囲に広がる荒野がよく見える。
その水平線の先に、自然と共存する国があるなんて、未だに信じられない。
「ヒルダ達は、元気にやってますかね」
「守護者である私達に依頼が来てないんだから、生きてはいるんじゃないかしら」
彼女は以前から依頼人に、情を持つなんてことは無かった。
ただヒルダとの茶会で見せた表情は、今まで見たことの無い、慈しみに満ちたモノだったようにジンは感じていた。それなのに、あまりにも素っ気なさすぎる。
少し前から違和感を覚えてはいたが、やはり彼女の様子はいつもと違う。
プレベントで、カミラから貰った『報酬』が関係しているのだろうか。
「隊長、プレベントの巫女から何を――」
――キーンッ
突如、超高音が鳴り響いたかと思うと、閃光が迸り一瞬目の前が真っ白になる。
事故を防ぐためザッカーマンは、咄嗟にブレーキを踏んで機体を止めた。
「うっ…一体なんだ」
眩暈はするが、どうにか目を開けることはできる。
外に出て周囲を確認すると、ハイウェイのそこら中で衝突事故が起きている。
しかし奇妙なことに、ドライバーは誰一人そんな事は気にしておらず、唖然とした表情である一点を見つめていた。
「隊長。あ…あれを見てください」
遅れて車外に出たジンに肩を叩かれ、ザッカーマンは振り返る。
彼が指さす方には、まるで絵画のような光景が広がっていた。
遥か彼方の地平線の雲が裂け、太陽の光が降り注いでいるのだ。
「始まったか」
ザッカーマンはそう独りごちり、拳を握りしめるのであった。
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