14.終章
「これが、レイゼン家が大戦直後から収集した資源です。これ程の量と種類があれば、使者殿の研究も容易く実現できるはずです」
ライフマターの地下にある資源貯蔵庫に、レイゼンによって案内されたヤーコフは、そこに貯蔵された資源の膨大な量に開いた口が塞がらなかった。その中には、現在では製造方法の分からなくなった合金から、絶滅した動植物から得られる材料まで揃っている。
「君たちは、これで何をしようというのかね」
「我々の悲願である、新天地を目指すための物資です。プレベントはただそれだけのために、世界と闘争を続けてきたのです」
「その新天地と言うのは、宇宙のことかね」
「巫女様のお言葉を借りるなら『私達の住む惑星から、1200光年離れた居住可能惑星であるロイド387c』が、我らの目指す地です」
なんということか、彼らは既に外宇宙に存在する、居住可能惑星の位置まで特定できている。
これは、ヤーコフ・キリエンコに多大な衝撃を与えた。
それも無理はない、宇宙を観測する技術は大戦時に、その殆どが失われてしまったのだ。ただ、ヤーコフは知らないだけで、大戦以前から生き残るプレベントが、その情報を知っているのは不自然な事ではなかった。
「あ…あぁ、本当に君たちは宙を目指そうというのだね。それで、ロイド387cに向かう船は、出来ているのかね」
「建造計画ならあります。ただ、まだソレに取り掛かる時ではないのです」
「一体どういうことだね」
「私達の使命は、あくまでも人類の救済なのです。ですから、巫女様は世界に呼び掛けるおつもりなのです。宙を渡る船の建造のために、この星の住人達が力を合わせようと」
「バカな! そんな事をすれば、ユニオンやシンビオーシスは必ず、船を独り占めにしようとするぞ!」
「だからこそ、抑止力としてライフマターが役に立つのです。この施設が、戦火に巻き込まれるような事があれば、彼らへの食糧供給は完全に停止しますから」
ユニオンやシンビオーシスも、独自に食糧生産地の確保はしている。
ただ、確かに彼らの抱える住民達を、全員食べさせていける程の生産能力は無い。
だからこそ、ライフマターのクローン技術による食糧供給は、二つの組織の存続には必要だった。そのために、彼らはライフマターを中立機関と認定し、攻撃することは無かった。
「しかし、それは破滅への道が確定的だったからだ。この死にゆく星を、脱出できる手段を目にすれば、奴らは目の色を変えて死に物狂いで、未来への希望を手に入れようとするはずだ」
「その懸念は、確かにありました。だからこそ、我々は第二の布石を打っておいたのです。使者殿は、子替えというモノをご存じでしょうか」
「噂に聞いたことはある。シンビオーシスの軍幹部の子供が、いつの間にか他人の子供と入れ替わって――」
ヤーコフは、言いながら途中である事実に気が付いた。
プレベントは既に、我が故郷への侵略行為を完了していたのだ。
「では、ユニオンでも」
「うーむ。子替え自体は、最近も行われてはいましたが…それは我々が、望むようなモノではありませんでした。ユニオン創立時に送り込んだ工作員達は、時が経つにつれ自らの役目を忘れ、私欲のために動きだしてしまったのです。そして、遂には飼い主の手まで噛もうとして、己の身を滅ぼしてしまいました」
レイゼンは、大仰に肩をすくめて「誠に残念だ」と付け加える。
「ですから今のところ、我々の悩みの種はユニオンのみという事になります。既に第三の布石は打ってあります。ただ、フィクサーと呼ばれる指導者はかなり切れ者のようで…また、彼女達の力を借りることになるやも」
なるほど、プレベントとは只の理想主義者達の集合体とい訳ではないようだ。
これならば、あの女傭兵が言ったように、私の研究成果を彼らに託すのもやぶさかではない。
「君たちがどれほど、この日のために準備して来たのかはよく分かった。では、早速『カイワン』の開発に取り掛かるとしよう」
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