12.生還
ザッカーマンが目を覚ますと、ベッドの上で寝かされていた。
またユーリの元に運ばれたのかと思ったが、どうやら違うようだ。
木漏れ日の差す窓の外には、青々と生い茂った木々が見える。
「ここは…プレベントなのね」
胸の辺りに違和感を覚え病衣をはだけると、胸部に半透明のシールが貼りついていた。
よく見ると、薄い基盤がその中に埋め込まれている。
「健康状態のチェックでもしてるのかしら。だったら――」
べりっとシールを剥しベッドの手すりに張り付け、左肩と腹部の傷を確認する。痛みも無く傷跡も残っていない、動かしても問題はないようだ。
ベットの上から起き上がり、部屋から出て現状を確認しようとしたところで、病室の扉が開かれ看護士らしき女性が現れた。
「あっ、ザッカーマン様。お目覚めしたのですね。お体の方は大丈夫ですか」
「問題ないわ。それより、私の服と武器はどこにあるのかしら」
「それでしたら、あちらに」
看護士が部屋の中に入り、壁に手をかざす。
すると、壁の一部がスライドし棚が現れた。
「武器の方は、身についていた全装備が揃っています。ただお召し物の方は、ボロボロだったので新しいモノをご用意させて頂きました」
「別に、前のと変わらない気がするのだけど」
看護士から手渡された服を広げてみるが、汚れや皺が無くなっただけで、前と同じモノのように感じる。
「私はよくわかりませんが…レイゼンさんの話だと、強化繊維で作り直して防刃性は抜群だとか」
「ふーん。まぁ、有難く頂いておくわ」
パサッと病衣を脱ぎ捨て、渡された服に着替えていく。
プレベントでは、人前で着替えるのは珍しいらしく、看護士は慌てて彼女から目を背けた。
黒のアンダーウェアに灰色の半袖、それに焦げ茶のカーゴパンツ。どれもサイズはピッタリで着心地がよくなっている。そして、ホルスターを肩から掛け回転式拳銃を突っ込み、ポーチをベルトに取り付けると、ザッカーマンはいつもの恰好に戻った。
「いい感じね。それで、現状を確認したいのだけど。私がここで寝かされている経緯と、起きるまでに何があったのか。それを説明できる人と、会わせて貰えないかしら」
「でしたら、少々お待ちを――」
「その必要はありません」
声のした方を見ると、いつの間にかカミラが扉の前に佇んでいた。
「えっ…巫女様、どうしてこちらに」
「予知夢を見たのです。ケイヤ、貴方は仕事に戻りなさい」
そう言われた看護士はカミラにお辞儀をすると、そそくさと病室からいなくなった。
「彼女は、貴女の知り合いなんですか」
「ん…ザッカーマンさんはどうして、そうお思いに」
「あの人は只の看護士ですよね。彼女と友人関係でもなければ、貴方の立場からすると、殆ど面識はないだろうと思いまして」
「あぁ、なるほど。私はケイヤだけでなく、国民全員の名前を記憶しているのです。勿論、ヒューゴ君やコータ君の事も憶えていますよ」
「やっぱり、貴女は――」
「ザッカーマンさん、その話は後ほど…。今は、あなたの身に起こった事を話しましょう」
ザッカーマンは言葉を呑み、カミラの言葉に頷いた。
彼女はこの場で、報酬の件について話したくないのだろう。
「まず私達がどうやって脱出したか、順を追って説明してもらえませんか」
「分かりました。シンビオーシスの特殊車両によって砂嵐から逃れた後、独自の判断で上空で待機していた偵察機が、貴女達を回収したのです。ジンさんの話だと、持ち込んだ応急キットの残りでは、貴女の傷を塞ぐことが出来ずに、かなり危うい状況だったようです」
そうか、そう言えば自分とラマンの治療で、ソレを殆ど使い切っていたのだった。
「偵察機に乗り込んだ後、止血処置は施せました。ただ、発熱し容態が安定しなかったため。使者と予定外の客人を乗せたまま、プレベントまで戻り到着後、貴女はこの病院で手術を受けたんですよ」
「じゃあヤーコフと共に、ラマンとルカは今もプレベントに?」
「そうですよ。それに使者の希望で、貴女のご友人であるユーリさんもいらしてます」
なるほどユーリにとっても、それがいいだろう。
恩師であるヤーコフとプレベントで再び共に働く方が、ユニオンで町医者をやってるより何倍もマシだ。
「それと、ジンさんは報酬のサンダーソニア――道端に咲いている花の名前です。それを受け取ると、用事があると仰り、先にユニオンへと戻りました」
どうせ「彼女」の元へ、花を贈りにでも行ったのだろう。
「はぁ…あんな奴のどこがいいんだか」
「え?」
「失礼、思った事がつい口に出てしまって。それはともかく、差し障りなければヤーコフ氏の研究を、プレベントでどのように使うつもりなのか、教えて頂きたいのですが」
「すみませんが、詳細までは…。ただ、彼の望んだ用途で使用する。それだけは、お約束しますよ」
「そんな、約束だなんて大袈裟な。私はただ、好奇心でお聞きしたまでですから」
そう――別に彼の兵器が地上を標的としようが、デブリを標的としようが、今はどうでもいい。フィクサーもヤーコフを狙っていたのだから、いずれはプレベントに対して何等かのアクションが取られるだろう。私がその騒動に巻き込まれたなら、その時に動き出せばいい。
それに今は、私が立てた推測が正しいのかどうか、それだけが知りたい。
「なるほど、現状は把握できました。端的に言えば、『宙への使者』を救出するという依頼は、無事達成されたということですね。では早速、私への報酬を支払って頂きたい」
「そうですね…では、私に付いて来てください」
そう言うと、二人は病室を抜け出た。
ザッカーマンは目的地を告げられぬまま、カミラの背に続いていくのであった。
お読みいただきありがとうございます。
よかったら感想、広告の下にある評価、ブクマへの登録をお願いいたします。
作者の励みになりマス。




