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厄介ごとならザッカーマン傭兵事務所へ  作者: サカトウ
Case3.『カイワン』
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10.囚人

「それじゃあ、貴方の話だと燃料…ではなくて、充電済みのバッテリーだったわね。それで、特殊車両は動くのねルカ」

「その通りですよ。それと地下一階の保管庫には、非常時用のバッテリーが残っているはずです」

「だったら、貴方達はラマンさんと一緒に上に戻って、脱出の準備をしておいて頂戴。私は、ヤーコフを救出してくるわ。彼が生きていたらの話だけど」

「推測の域はでませんが、囚人達は無事なはずですよ。分厚い2重扉で、各々が牢に閉じ込められていますので」

「それは朗報ね。じゃあ、行ってくるわ」


 未だ目を覚まさないラマンを、二人で慎重に抱えるジンとルカを残し、ザッカーマンは一人地下へと階段を下っていく。


化物という脅威がいなくなり、ルカがこちらを裏切る可能性もある。ただ、ラマンを救った私達に対し心から感謝しているようで、その兆候は見られなかった。彼にとって、ラマンはよほど大切な存在だったのだろう。


 そんな事を考えながら、最後の一段を下りきる。

 この階層でも化物による殺戮があったのだろう、左右に続く廊下には点々と死体が転がっていた。ただ、ルカの言った通り、牢屋は一つも開かれていないようだ。


「皮肉な事ね。堅固な牢屋のおかげで囚人は生き残ったのに、外にいた看守は全滅してるなんて」


 彼女は生存者による奇襲を警戒し、死体の一つ一つを確認しながら歩みを進め、ついにヤーコフが囚われている牢までたどり着いた。牢の扉は電子ロック式で、4桁の暗証番号をキーパッドに打ち込む必要がある。


「ルカの言う通りなら、確か…1961と」


――ギギッ、ガコンッ、ガコンッ

 

 彼女がその番号を入力し終えると、重厚な扉が自動で開かれ、牢の内部が明らかになる。簡易ベッドと便器だけが設置された、真っ白な部屋だ。そして、その中央にまるで置物のように、やせ細った老人が胡坐をかいて瞑想をしていた。


「あなたが、ヤーコフ・キリエンコね」


 反応がない。

 本当に生きているのだろうか。

 とりあえず、彼を揺り起こそうと一歩踏み出す。その瞬間、彼はカッと目を開き、猛禽類のような鋭い眼光でザッカーマンを睨み付けた。


「お前は誰だ」

「傭兵よ。そして、貴方の弟子だったユーリの知り合いでもある」

「ユーリ…ユーリ・ヴァシレフスキーか! 彼は、生き延びていたのか」

「えぇ、ユニオンで医者をやってるの。私も、何度も彼の世話になってるわ」


 ユーリの名を聞いた老人は、少し表情を和らげた。


「ではユーリが、君に私の救出を頼んだのか」

「そう言いたいところだけど、残念ながら違うわ。私はプレベントの巫女から依頼を受けて、『宙への使者』と呼ばれる貴方を救出しに、ココへやって来たの」

「その巫女と言うのは、本当に私の事をそう呼んでいるのか」

「巫女というよりは、プレベントの全国民がね」

「だとしたら…」


 彼は小さくそう呟くと、またしても瞑想を始めてしまった。

 こちらの呼び掛けにも、反応してくれない。


「困った爺さんね。こんなところ、早々に脱出したいってのに」


 彼を起こすのを諦めたザッカーマンは、床に座って銃の手入れを始めた。

 ロックスイッチを押し込み、バレルを取り外す。そして、撃鉄を半分引き上げ、シリンダーを引き抜いた。そうやって分解した部品を、ブラシで丁寧に磨きあげ、再度組み上げていく。

 すると、ヤーコフが薄く目を開き沈黙を破った。


「回転式の拳銃か…大戦以前の骨董品だな」

「貴方の言う通りよ。でも、その分作りが単純なのがいいのよ。いくら撃っても、弾詰まり一つ起こさない」

「君はソレで、いくつの命を奪ったんだ」

「数え切れない程には」


 そう答える彼女に対し、ヤーコフは眉をひそめる。


「悔いているか」

「ふっ、一体何を悔いるっていうの? 必要だったから殺した。ただ、それだけよ」

「私が恐れているのは、ソレなのだ傭兵よ。『必要だった』たったそれだけの理由で、君は数多の命を奪った。君のように理由さえあれば、この世界の多くの住人は迷いなく引き金を引く。私の研究成果がそんな者達に渡れば、何人…いや、何百万もの命が失われてしまうのだ」

「詭弁ね。貴方は命を奪う兵器の開発によって、自分自身の命を繋いできた。それじゃあ、私となんら変わらなじゃない。そうでしょう?」


 ヤーコフにそう問いかける、ザッカーマンは片頬に笑みをたたえている。

 そして、狂気をはらんだ眼で彼を見つめ、こう付け加えた。


「それでも貴方は、只の人殺しの私とは違う。貴方は他者の死を糧に、希望をもたらす兵器を生み出した。その証明したいのなら、『宙への使者』を待望する者達を信じてみるのも、一興じゃないかしら」

「一興か…まるで他人事のようだな。プレベントが私を裏切れば、お前も犠牲になるのだぞ」


 彼の戯言を一笑に付し、ザッカーマンは呪文めいたことを呟き出す。


「執拗なまでの遺物収集、世界の生命線であるライフマター、予知夢により未来を見通す巫女。そして貴方、ヤーコフ・キリエンコの研究成果。これだけ役者が揃えば、決して分の悪い賭けなんかじゃないわ…さぁ、そろそろ時間よ。私と共に、ここを脱出するか。それとも、こんなつまらない場所で野垂れ死ぬか。どちらか選びなさい」


 ふぅとヤーコフは大きくため息をつき、重々しく口を開いた。


「分かった。君の賭けに乗ってやろう」


 そう言うと、案外しっかりした腰つきで、ヤーコフは立ち上がる。

 これなら、彼を担ぎ上げる必要もないだろう。


「しっかり、後ろについて来なさい」


 ザッカーマンは地下一階を目指し、ヤーコフを後ろに庇いつつ廊下を前進していくのであった。


お読みいただきありがとうございます。

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