09.報復
ジンを先頭に、ザッカーマンは殿となって。ラマンとルカを守るように、同階層にある武器庫を目指している。すると、ラマンが歩調を緩め、ザッカーマンと平行し始めた。
「そう言えば、君達はどうやってココに入ってきたんだい」
「地上からです。ただ残念ですが、上は全滅でしたよ」
「なんだって? それじゃあ、トンネルを通らずに砂嵐を越えて来たか」
「その通りです。むしろ、トンネルがあるなんて初めて聞きました」
喋りすぎたと思ったのか、ラマンは口を噤んでしまう。
そこにすかさず、ルカが助け船を出してくれた。
「ラマン長官。私達は、彼らに亡命を手助けして貰うのですから、情報は共有しておいたほうが」
「そうか、ルカ君がそう言うのなら…。シンビオーシスの大本営は、近々この牢獄を研究所に改装し、古代の環境兵器を甦らせる予定だったのだよ。そのためには、特殊車両の物資運搬だけでは何かと不便でね。ここから、北西に100km地点にある資源防衛基地から、トンネルを掘り進めて、レールを敷き列車を走らせたんだ」
「それなら、その列車で――」
「脱出したかったさ。ただ、そう上手くはいかないのが現実だ。一週間程前に、トンネルが崩落したのだよ。私は再度の開通を急いで、兵士達に瓦礫の撤去を命令した。その矢先に、あの化物が瓦礫の中から現れたんだ。我々は、てっきりユニオンによる襲撃かと思っていたよ」
「確かに、そう思うのも無理はないですね。何せアレは、金属製の武装を無効化できる能力を、持っているのですから」
その通りだというように、ラマンはしきりに頷いている。シンビオーシスは、鉱山地帯に拠点構えるだけあって、殆どの兵器や武器が金属製だった。
「あぁ、そう言えば私からも質問が」
「ん? なんだね、言ってみたまえ」
「なぜ長官であるアナタが、新兵のルカを言うことを素直に聞くのですか」
彼女の質問に面食らったラマンは、わざとらしく咳払いを繰り返す。
「コホン、それはだね。か、彼の事を信頼しているからだよ。ここでは、階級なんてお飾りのようなものなんだ。なぁ、ルカ君」
「え? あっ…そうですね。ラマン長官には、日頃から頼りにして頂き、本当に感謝しております」
「隊長、お喋りはそのくらいで。武器庫に着きましたよ」
もう少し、二人の関係について知りたかったが、それは諦めてジンの元に近づく。
目の前には武器庫へと繋がる、ハンドルが付いた重厚な扉が立ちふさがっていた。
ジンに背後を警戒させ、傷口が開かぬように、右手で力強くそれを回した。
ガコンッガコッ
鉄芯が外れる音が続き、ようやく扉が開き始めた。
「手を貸しますよ」
ルカがザッカーマンと一緒に扉を押して、ギギィとそれが開かれる。
先にラマンとルカを、中へと押しやったところで、ジンが彼女の背後で囁いた。
「何か、変な音が聞こえませんか」
彼の言葉を受け、彼女は目を瞑り耳を澄ませてみる。
――カチャ…カチャ…
ジンの言う通り、廊下の奥から何か音が聞こえてくる。
それは確実に、こちらへと近づいて来ていた。
「なんだ…あれは」
二人が見つめる先から、ゆっくりと闇が迫って来ている。
いや、よくよく目を凝らすと闇の正体は、壁の如く廊下の道幅一杯に宙に浮いた無数の銃であった。それが、こちらへと向かって来ているのだ。こんな芸当が出来るのは、アレしかいない。
そう理解したジンは、迫りくる銃の壁に固形燃料弾を撃ち込んでいく。
「くっ、火力不足か」
弾丸が着弾した部分の銃が歪んだだけで、ソレは未だに近づいてくる。
「撃ち続けて時間を稼いでおけ! 私は、火炎放射器を取って来る!」
「了解です、隊長」
ジンをその場に残し、ザッカーマンは武器庫へと踏み込んだ。
中では、ルカが保管ケースに掛かっている南京錠と格闘していた。
「どきなさい!」
そんな彼を押しのけて、鍵に銃口を向ける。
バズンッ!
彼女は鍵の外れた保管ケースを開け、中から火炎放射器と燃料の詰まった小型ボンベを取り出す。
「ルカ、これの使い方は分かるわよね」
「はい、勿論です」
「それなら、私の合図で化物に向かって炎を放って頂戴」
ザッカーマンは、彼が頷くのを横目で確認しつつ、手榴弾を一つ手に取り、ルカを引き連れてジンの元へと戻ってきた。既に、銃の壁は5m程のところまで近づいて来ている。先ほどと比べると幾分か壁の厚みが減り、宙で揺らめく銃の隙間から化物が顔を覗かせている。
「隊長、これが最後のマガジンです!」
ジンは拳銃を勢いよく捻って空の弾倉を飛ばし、10発の固形燃料弾が詰まった弾倉を素早く装填する。
「ジン! コチラの動きを気取られないように、顔に集中砲火しなさい!」
「了解です」
ダンッ、ダンッ、ダンッ!
壁に弾丸がぶつかる度に小さな爆発が起き、壁を構成する銃が歪み僅かな隙間ができる。化物は被弾を防ぐため、そこに銃を集中させていく。
それを確認したザッカーマンは、手榴弾のピンを抜き一呼吸置いて、それを放り投げた。
ドンッ
手榴弾が弾け、化物を守っていた壁が消え失せる。
これを好機と見たルカは、ザッカーマンの合図と共に火炎放射器のトリガーを強く握った。
「ルカ、今だ」
「これでも、喰らえバケモノめ!」
龍の息吹のごとく噴き出た業火が、化物に襲い掛かる。がしかし、ソレの背中に刺さった杭が激しく揺れ、化物の面前で炎は勢いを失った。そして、今度は行き場を無くした炎が壁となって、化物とザッカーマン達を隔てていく。
「今度はそっちが、罠に掛かる時のようね」
バズンッ!
目にも止まらぬ早撃ちで、5発の弾丸が放たれる。
その全てが、業火の中へと吸い込まれていった。
「フギャァァァ!」
悲痛な咆哮が響き渡り、地獄の業火が化物を飲み込んでいく。
火だるまとなったソレは、床を転げ回りどうにか火を消そうと、もがいている。
武器庫に隠れていたラマンも、何事かとザッカーマン達の元へと駆け寄ってきた。
「仲間の仇だ…地獄に落ちろ!」
そう言い放ったルカが、化物にトドメを刺そうと拳銃を引き抜いた時だった。
突如、燃え盛る炎の中から灼熱の刃が飛び出し、彼を目掛けてグンッと伸びる。
「危ないッ!」
刃がルカを貫く寸前、後ろからラマンが咄嗟に彼を引き倒す。
そのおかげでルカはどうにか助かったが、凶刃は勢いそのままにラマンの腹部に突き刺さってしまう。
「うぐっ」
それが最後の抵抗であったのだろう。
化物の動きはピタリと止まり、その先端に刃を付ける黒焦げの尻尾は、ぐったりと地面に垂れ下がった。
「そんな、ラマン長官!」
惨劇を目にしたルカは、膝を折ってうなだれるラマンに、すぐさま彼に駆け寄って刃を引き抜こうとする。そんな彼を止めるべく、ジンが後ろから羽交い締めにした。
「何をするんだ放せ! 放してくれ!」
「ルカ、落ち着いて! ラマンさんは、激痛で気絶しただけで、まだ生きている。でも今、ソレを抜けば出血多量で確実に死んでしまう! 彼の傷口をよく見てくれ。高温に熱せらていた刃によって傷口が焼かれて、血が止まり始めているんだ」
ジンの言う通り、腹部から流れ出す血が次第にに止まっていく。
それを見たルカは、やっと落ち着きを取り戻した。
「でも、このままだとラマン長官は…」
どうすれば、彼を救えるのか。
目の前で、最愛の人が命を落とそうとしている。
手が震え、涙が溢れ出てくる。
もう、何をしていいのか分からない。
「ジン、ゆっくりとアレを抜きなさい。それと、あんたの応急キット使わせてもらうわよ」
それを聞いたジンは力強く頷き、白十字が描かれたポーチをザッカーマンに手渡すと、指が焼けるのも厭わず慎重に刃を引き抜いた。そして、すかさずザッカーマンが傷の深さを確認する。
「ふっ、幸運な人ね。厚い脂肪のおかげで、内臓まで傷は達していないわ」
「そ、それなら!」
「えぇ。傷の縫合をして、抗生物質を注射すれば助かるわ」
「よかった…本当によかった」
嗚咽を漏らし涙を流すルカを、ジンが落ち着かせる中、ザッカーマンは手際よく傷の手当をしていくのであった。
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