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厄介ごとならザッカーマン傭兵事務所へ  作者: サカトウ
Case3.『カイワン』
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09.報復

 ジンを先頭に、ザッカーマンは殿となって。ラマンとルカを守るように、同階層にある武器庫を目指している。すると、ラマンが歩調を緩め、ザッカーマンと平行し始めた。


「そう言えば、君達はどうやってココに入ってきたんだい」

「地上からです。ただ残念ですが、上は全滅でしたよ」

「なんだって? それじゃあ、トンネルを通らずに砂嵐を越えて来たか」

「その通りです。むしろ、トンネルがあるなんて初めて聞きました」


 喋りすぎたと思ったのか、ラマンは口を噤んでしまう。

 そこにすかさず、ルカが助け船を出してくれた。


「ラマン長官。私達は、彼らに亡命を手助けして貰うのですから、情報は共有しておいたほうが」

「そうか、ルカ君がそう言うのなら…。シンビオーシスの大本営は、近々この牢獄を研究所に改装し、古代の環境兵器を甦らせる予定だったのだよ。そのためには、特殊車両の物資運搬だけでは何かと不便でね。ここから、北西に100km地点にある資源防衛基地から、トンネルを掘り進めて、レールを敷き列車を走らせたんだ」

「それなら、その列車で――」

「脱出したかったさ。ただ、そう上手くはいかないのが現実だ。一週間程前に、トンネルが崩落したのだよ。私は再度の開通を急いで、兵士達に瓦礫の撤去を命令した。その矢先に、あの化物が瓦礫の中から現れたんだ。我々は、てっきりユニオンによる襲撃かと思っていたよ」

「確かに、そう思うのも無理はないですね。何せアレは、金属製の武装を無効化できる能力を、持っているのですから」


 その通りだというように、ラマンはしきりに頷いている。シンビオーシスは、鉱山地帯に拠点構えるだけあって、殆どの兵器や武器が金属製だった。


「あぁ、そう言えば私からも質問が」

「ん? なんだね、言ってみたまえ」

「なぜ長官であるアナタが、新兵のルカを言うことを素直に聞くのですか」


 彼女の質問に面食らったラマンは、わざとらしく咳払いを繰り返す。


「コホン、それはだね。か、彼の事を信頼しているからだよ。ここでは、階級なんてお飾りのようなものなんだ。なぁ、ルカ君」

「え? あっ…そうですね。ラマン長官には、日頃から頼りにして頂き、本当に感謝しております」

「隊長、お喋りはそのくらいで。武器庫に着きましたよ」


 もう少し、二人の関係について知りたかったが、それは諦めてジンの元に近づく。

 目の前には武器庫へと繋がる、ハンドルが付いた重厚な扉が立ちふさがっていた。

 ジンに背後を警戒させ、傷口が開かぬように、右手で力強くそれを回した。


 ガコンッガコッ


 鉄芯が外れる音が続き、ようやく扉が開き始めた。


「手を貸しますよ」


 ルカがザッカーマンと一緒に扉を押して、ギギィとそれが開かれる。

 先にラマンとルカを、中へと押しやったところで、ジンが彼女の背後で囁いた。


「何か、変な音が聞こえませんか」


 彼の言葉を受け、彼女は目を瞑り耳を澄ませてみる。

 

――カチャ…カチャ…


 ジンの言う通り、廊下の奥から何か音が聞こえてくる。

 それは確実に、こちらへと近づいて来ていた。

 

「なんだ…あれは」


 二人が見つめる先から、ゆっくりと闇が迫って来ている。

 いや、よくよく目を凝らすと闇の正体は、壁の如く廊下の道幅一杯に宙に浮いた無数の銃であった。それが、こちらへと向かって来ているのだ。こんな芸当が出来るのは、アレしかいない。

 そう理解したジンは、迫りくる銃の壁に固形燃料弾を撃ち込んでいく。

 

「くっ、火力不足か」


 弾丸が着弾した部分の銃が歪んだだけで、ソレは未だに近づいてくる。 


「撃ち続けて時間を稼いでおけ! 私は、火炎放射器を取って来る!」

「了解です、隊長」


 ジンをその場に残し、ザッカーマンは武器庫へと踏み込んだ。

 中では、ルカが保管ケースに掛かっている南京錠と格闘していた。


「どきなさい!」


 そんな彼を押しのけて、鍵に銃口を向ける。


 バズンッ!


 彼女は鍵の外れた保管ケースを開け、中から火炎放射器と燃料の詰まった小型ボンベを取り出す。


「ルカ、これの使い方は分かるわよね」

「はい、勿論です」

「それなら、私の合図で化物に向かって炎を放って頂戴」


 ザッカーマンは、彼が頷くのを横目で確認しつつ、手榴弾を一つ手に取り、ルカを引き連れてジンの元へと戻ってきた。既に、銃の壁は5m程のところまで近づいて来ている。先ほどと比べると幾分か壁の厚みが減り、宙で揺らめく銃の隙間から化物が顔を覗かせている。


「隊長、これが最後のマガジンです!」


 ジンは拳銃を勢いよく捻って空の弾倉を飛ばし、10発の固形燃料弾が詰まった弾倉を素早く装填する。


「ジン! コチラの動きを気取られないように、顔に集中砲火しなさい!」

「了解です」


 ダンッ、ダンッ、ダンッ!


 壁に弾丸がぶつかる度に小さな爆発が起き、壁を構成する銃が歪み僅かな隙間ができる。化物は被弾を防ぐため、そこに銃を集中させていく。

 それを確認したザッカーマンは、手榴弾のピンを抜き一呼吸置いて、それを放り投げた。


 ドンッ


 手榴弾が弾け、化物を守っていた壁が消え失せる。

 これを好機と見たルカは、ザッカーマンの合図と共に火炎放射器のトリガーを強く握った。


「ルカ、今だ」

「これでも、喰らえバケモノめ!」


 龍の息吹のごとく噴き出た業火が、化物に襲い掛かる。がしかし、ソレの背中に刺さった杭が激しく揺れ、化物の面前で炎は勢いを失った。そして、今度は行き場を無くした炎が壁となって、化物とザッカーマン達を隔てていく。


「今度はそっちが、罠に掛かる時のようね」


 バズンッ!


 目にも止まらぬ早撃ちで、5発の弾丸が放たれる。

 その全てが、業火の中へと吸い込まれていった。

 

「フギャァァァ!」

  

 悲痛な咆哮が響き渡り、地獄の業火が化物を飲み込んでいく。

 火だるまとなったソレは、床を転げ回りどうにか火を消そうと、もがいている。

 武器庫に隠れていたラマンも、何事かとザッカーマン達の元へと駆け寄ってきた。

 

「仲間の仇だ…地獄に落ちろ!」

 

 そう言い放ったルカが、化物にトドメを刺そうと拳銃を引き抜いた時だった。

 突如、燃え盛る炎の中から灼熱の刃が飛び出し、彼を目掛けてグンッと伸びる。


「危ないッ!」


 刃がルカを貫く寸前、後ろからラマンが咄嗟に彼を引き倒す。

 そのおかげでルカはどうにか助かったが、凶刃は勢いそのままにラマンの腹部に突き刺さってしまう。


「うぐっ」


 それが最後の抵抗であったのだろう。

 化物の動きはピタリと止まり、その先端に刃を付ける黒焦げの尻尾は、ぐったりと地面に垂れ下がった。


「そんな、ラマン長官!」


 惨劇を目にしたルカは、膝を折ってうなだれるラマンに、すぐさま彼に駆け寄って刃を引き抜こうとする。そんな彼を止めるべく、ジンが後ろから羽交い締めにした。


「何をするんだ放せ! 放してくれ!」

「ルカ、落ち着いて! ラマンさんは、激痛で気絶しただけで、まだ生きている。でも今、ソレを抜けば出血多量で確実に死んでしまう! 彼の傷口をよく見てくれ。高温に熱せらていた刃によって傷口が焼かれて、血が止まり始めているんだ」


 ジンの言う通り、腹部から流れ出す血が次第にに止まっていく。

 それを見たルカは、やっと落ち着きを取り戻した。


「でも、このままだとラマン長官は…」


 どうすれば、彼を救えるのか。

 目の前で、最愛の人が命を落とそうとしている。

 手が震え、涙が溢れ出てくる。

 もう、何をしていいのか分からない。

  

「ジン、ゆっくりとアレを抜きなさい。それと、あんたの応急キット使わせてもらうわよ」


 それを聞いたジンは力強く頷き、白十字が描かれたポーチをザッカーマンに手渡すと、指が焼けるのも厭わず慎重に刃を引き抜いた。そして、すかさずザッカーマンが傷の深さを確認する。


「ふっ、幸運な人ね。厚い脂肪のおかげで、内臓まで傷は達していないわ」

「そ、それなら!」

「えぇ。傷の縫合をして、抗生物質を注射すれば助かるわ」

「よかった…本当によかった」


 嗚咽を漏らし涙を流すルカを、ジンが落ち着かせる中、ザッカーマンは手際よく傷の手当をしていくのであった。


お読みいただきありがとうございます。

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