03.迂回
――『ブロウ』、ソレが俺の所属するPMCだ。
「まさか、本当に答えるとは思いませんでしたよ」
「こっちも、どんな形であれ、企業の依頼を受けて競りに介入してるんだもの。公にはできないと判断したんでしょうね」
「確かにそうですね。ブロウ社が介入していた物証は、手元には何もありませんし」
事務所でカタカタとパソコンを弄りながら、ジンが納得顔で頷く。
「それにしても、奇襲作戦、うまくいってよかったです。何日も市場と裏路地を、歩き回った甲斐がありましたね。でも、なんで相手が一人じゃないって分かったんですか?」
「お前はもう忘れたのか?プロテクト社でも、任務遂行時に小隊は、スリーマンセルかフォーマンセルで動いていただろ」
「あっ、確かに。ん、セキュリティ突破できました隊長」
ザッカーマンが、ジンの後ろに回りこむと、パソコンにズラリと企業名と数字が羅列してある。
「ブロウ社の取引先と収支額のリストです。表の取引内容だけですけど」
「さすがに、裏の証拠は残さんか。よくやった、こっちのパソコンにも転送しておいてくれ」
「じゃあ、後は…競りの報酬低下の時期から、ブロウ社との取引回数か、彼らに支払われた報酬金額が、増えた企業を探すだけですね」
「そうね。数千とある情報の中から、その条件に合う企業を、厳選するだけってわけ」
一瞬の静寂が訪れ、ジンが口を開く。
「なんで、ブロウ社に依頼した企業の名前聞かなかったんですか?」
「プロがそんな事、言うわけないだろ…」
二人は深いため息をつきながら、それぞれモニターを睨み始めた。
――時は巡り、一週間後の事務所にて
元々、最低限の掃除しかされていなかった事務所は荒れ果てインスタント食品の容器や、空のペットボトルの山が幾つか出来ていた。
「隊長、進捗どうですか」
「十数社に絞れた、お前は?」
「自分もそれぐらいですね。ただ、輸送業者や武器開発業者が多くて。この中だと、傭兵の報酬が低下したところで、利益を得る企業はありません」
確かに、ジンが挙げた企業は、物資輸送の護衛や試作品のテスターなどを、傭兵に依頼することもある。ただ、これらの企業は、ミスによる物資の損失や情報漏洩を恐れて、プロに依頼することが殆どであった。つまり、ブロウ社のような大手PMCへの依頼が、多いこのは自然なことだった。
その報告を聞いたザッカーマンは、彼女がまとめたリストに目を通す。こちらには、傭兵と競合する、ユニオン内の治安維持関係の企業が多い。ただ、VIPの護衛や式典の警備など、ネットニュースにも載った話題と収入増加の時期が一致しており、不自然なところはない。
「隊長、また一から見直します?」
「いや、一社だけ得をする企業が載っているぞ。食い扶持が無くなった傭兵が、行きつく先だ」
「汚染地帯でのテクノロジー回収…ですか」
ザッカーマンらの母星は資源減少に端を発する、大戦直前の各国家の惑星移住計画により、ロケット開発競争が行われた過去がある。国家同士の妨害により、増加したデブリは、宇宙への道閉ざし世界大戦の切っ掛けとなった。その戦争では、ありとあらゆる兵器が使用され、多くの土地が汚染された。そこには多くの瓦礫と共に、宇宙遠征に必要となる貴重な遺物が埋もれている。
汚染地帯では異常気象や放射能、果てには生物兵器までもが、人間の侵入を阻んでいる。そんな場所に調査に行くためには、高性能な防護スーツや、不測の事態に対応できる人材が必要だった。
企業が私兵を送りこむこともある。しかし多くの場合、傭兵を雇い目星の場所を調査後に、企業専属の部隊が、迅速に遺物を回収するのがセオリーとなっていた。
そして、そんな汚染地帯への調査を斡旋する企業の一つ『ニューエイジ』がザッカーマンのリストには載っていた――
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